(8)
で、問題の高校生活。
本当にこの一年で私の気持ちに大きな変化が現れた。
気が付いてしまったのだ。
自分自身の感情に。
自分が今なにを考えているのかを。
もう神の定めというかなんというか、光の人気っぷりは高校でも健在。休み時間になると光の周りにはたくさんの男女が集まっていた。
私の方はといえば、流石にこのままじゃまずいと中学で学び、これまで以上にクラスの人と馴染むように頑張った。
その結果、友達と言える人は何人か出来たのでもう一人でいるということはなくなった。
そんな中でも私が気にしていたのは光と同じサッカー部にのマネージャーである白石うさぎちゃん。これがまた可愛い。
ショートヘアを金色に染めていてスタイルもいい。おまけに性格まで良い。優しい、可愛い、大人らしい、まさに完璧な女子。
彼女が光といるところを見ると。笑い合ってるのを見ると。
あれ?
なにこの気持ち?
今までには無い感情。
どうして?
……もしかして嫉妬?
私、光が取られるって思ってるの?
じゃなきゃこんな気持ち……なったことないよ?
――気が付けなった。
いや、もしかしたらもう中学生の頃の私は知っていて。
――もし気が付いてしまったら。
なにか、今の心地良い幼なじみの関係が崩れてしまうんじゃないか怖くて。
――気付かないふりをしていたのかも知れない。
でも――もう隠すのが精一杯になった。
そのまさかの感情に気が付いてからは、もう気持ちの整理は追い付かなくなっていった。
考えるよりも先に、勝手に自分の感情だけが脳内にしみわたっていく。
気が付いたら光を見てる。
気が付いたら光のことを考えてる。
気が付いたら心が――痛くなってる。
このままじゃ…………光が!!
ずっと一緒にいた、いや。いてくれた光が!
そこで私はようやく決心したのだ。
光に告白すると。
誰かに先を越される前に、私が――誰よりも光のことを知っている私が――自分の想いを伝えるのだ……と。
しかし……気が付いたら二年生になっていた。
しかも最近、光は部活帰りにうさぎちゃんと歩いているのを良く目にするという、情報もあるし、実際確認してみたけどその通りだった。
なんて自分は情けないんだ……
想いを伝えることを怖がって、今の関係を壊してまで光と特別になるのが怖くて、もしかしたら光の方から告白を――なんて淡くて脆い期待をして。
自業自得。
そんな自分が嫌いになって、もう想いを伝えるのは止めようと思い立っていた時。
――悩み部を知った。
仕切っているのはうさぎちゃんとも肩を並べるほどの、人気を集める清水楓ちゃん。
そしてその助手?的な立ち位置にいるという秋宮薪君。
この男子のことは正直なんも知らなかった……しかも同じクラスにいた。なんか、昔の私を見ているかのような立ち位置の人。
始め――悩み部に相談した時、内心それほど期待はしていなかった。
所詮、高校生のやること。
そこまで大したことはやらないし、真剣に取り組まないだろうと思っていたのだ。
実際、鍵を職員室に取りに行った時も顧問なんていなかったし、部室も北校舎の寂れたところだし。
なんかいいことあったらいいなー、と軽い気持ちでいた。
……でも、違った。
楓ちゃんたちは私の、他人の恋に対してものすごく真剣に悩んでくれて行動してくれて。光との関わりをどうにかして増やそうとして、尾行までして光の様子を観察して。
というか、まさか高校生で尾行をするとは思わなかった……
そんな彼らと少なからずではあるが、行動を共にしていたら至極まともな意思――というか決心がようやく芽生えた。
――ちゃんと私の恋に、想いに、決着をつけよう
彼らがあんなにも私の「悩み」のために頑張ってサポートしてくれて、当の本人がそんな曖昧な気持ちでいてどうすんだ、と。
もう、結末がどうなってもいい。
どんな答えが待っていようと構わない。
自分で、この長い想いを伝えるんだ‼
その結果、光と結ばれるのならそれは本望である。
一歩、私は成長するんだ。
秋宮君、楓ちゃんの努力、想い。
決して無駄にはしない。
――臆病な私のさようなら
ここまでだらだら思い返してみたけど……
やっぱ光のことをいつ好きになったかなんて分からない。
なんで好きになったかなんて分からない。
恋というのはその気持ちに自分が気付いた時から始まっているのか、はたまた気付かなくてももう既に恋しているのか……そんなん多分、誰でも分かんない。
でも一つ、確かなことは。
これは幼なじみの恋物語なんかじゃない。
そんな幼なじみだったから、という理由で始まる物語なんかじゃない。
そんなんじゃこの気持ち、表現できない。
そんなんで済ましたくない。
――臆病な私にさようなら。
これは、ごく普通の一人の少女。
中野葉月の、中野葉月だけの恋物語。
だから――ね?
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