第20話 女子会(女子とは言っていない)

「じゃ、あちしは帰る」


 僕と朝日もゲームからログアウトする。

 朝日は女子会を始めると言っていたけど、冗談だったらしい。


(いや、待って)


「いったんってどういう意味?」

「あちし、女子会やるって言ったじゃん」

「けど、みんな都合が悪いようだし、小陽さんじゃなくて僕なんだよ。女子会はまた今度で」

「やーだー」


 朝日は床に寝そべり、バタバタと手足を動かす。スーパーでダダをこねる幼児ムーブだ。

 ミニスカートなので、クマさんの下着が見えている。格好まで幼女だった。


「女子会をしてくれるまで」

「まで?」

「みっちゃんにエッチなお願いをすんぞ、ごらぁぁっつ!」

「やだ」

「あちしがエッチなご奉仕するんだよ?」

「……僕も男なんだぞ」

「あら、あちしを意識しちゃった? みっちゃんも男子なんだなぁ」


 幼なじみがニヤける。


(だって、しょうがないじゃん)


 朝日は見た目は美少女。身長は150センチを超えたぐらいなのに、出るところは出ている。

 いわゆる、ロリ巨乳に分類され、ひそかにモテている。

 実際、中学時代は、見知らぬ男子から朝日との仲を取り持ってくれと何度も頼まれた。


 僕は朝日に恋愛感情はない。

 とはいえ、性的な魅力は感じるわけで。


 表に出せる紳士的な振る舞いと、裏に秘めた男子高校生の欲望。

 相反する気持ちの板挟みになっている。


 ところで、表と裏について、ふと思った。


 僕がコインの表なら、小陽さんは裏なのだろうか?

 僕にはできないことが小陽さんにはできるから。


「じゃあ、そういうことで、この部屋で女子会やるから」

「あっ、ちょっと」


 幼なじみは僕が呼び止めるのを無視して、部屋から出て行った。

 考えごとをしたのが悪かったらしい。


 10分後。朝日が戻ってくる。


「たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、イカ焼き、綿飴、赤ちゃんカステラもあるよ」


 デリバリーバックに大量の食べ物を持ち込んで。

 容器はプラスチックで、割り箸つきの祭りスタイルだ。


「女子会ってより、祭りだな」

「女子会は祭りなのさ」


 どうせ、料理は朝日パパが用意したにちがいない。大の祭り好きが高じて、家で屋台の味を再現している人だ。短時間で準備できた謎もあるが、突っ込むのは遠慮しよう。


「ここからは女子同士の話をするぞ」

「僕は男なんだけど」

「はるるんになりきる練習だと思って」

「そんなん思えない」

「また、今日みたいなことあるかもよ」


 たまに、まともな指摘をするから朝日は侮れない。


「そうだよなぁ。小陽さんのためにも練習しなきゃ」

「ちがうでしょ。『そうですねぇ。小陽さんのためにも練習しないといけないですね』が正解。リピート・アフター・ミー」


 いきなりすぎるのは癪だが、小陽さんなら素直に従うだろう。


「そうですねぇ。小陽さんのためにも練習しないといけないですね」

「おっ、文句も言わずにやったのは、はるるんっぽい」


 やっぱり、朝日も同じことを思っていたらしい。


「あ、朝日も……ううん、朝日さんも、小陽さんは従順な子だと思ってますか?」


 自分の口調になりそうなのをどうにか軌道修正する。


「もち。あの子、セッ○スさせてとか言えば、やらせてくれんじゃね」

「……」

「みっちゃん、頼んでみたら?」

「そりゃ、ダメだろ」


 つい素で突っ込んでしまった。


「倫理的な問題はもちろん、あたしたちは同じ体なんですし」

「残念だったね」


 頭を撫でられる。

 直後。朝日は目を見開いて、自分の手をポンと叩く。


「ってか、体を共有してんだったら」


 世紀の大発見とでも呼ぶべき顔で。


「自分とエッチすれば、実質、はるるんとのセッ○スなのでは?」

「あっ、はい…………じゃない」


 しょうもなさすぎる。


「ただし、自家発電は除く」

「小陽さんに見られる僕の気持ちを考えて」


 小陽さんモードを貫くのは難しい。


「といいますか、小陽さんちょっとエグいですよ」

「丁寧語乙。けど、はるるんは不満を言わないぞ」


(誰か暴走を止めてください)


「朝日さん、今日は女子会なのですよ」

「女子会に恋愛話はつきものだし」

「……」

「マジな話、男子がいないと、かなり大胆な話もするんや」

「……そ、そうなんですね」

「真っ赤になるところだけは、はるるんに似てるかな」

「あっ」


 目から鱗が落ちた。


 小陽さんは勉強もスポーツもできて、人気者。僕とは真逆だと思っていたけれど、共通点もあった。

 今日、代役をしてみて、小陽さんという存在を身近に感じることができた。


「で、ここからは恋バナだぞ」


 朝日はイカ焼きを食べながら言う。恋バナとのギャップが半端ない。


「はるるんのこと好きなんだろ?」

「なっ、なんのことでしょうか?」

「目が泳いじゃってバレバレやし」


 朝日は肘で僕の脇をつついてくる。


「いい加減、吐いちまえよ」

「……黙秘します」

「里のおっかさんも泣いてるぞ。いいから、カツ丼を食え」


 朝日が渡してきたのは、たこ焼きだった。しかも、自分が使っていた割り箸でつまんでいる。


「あちしのカツ丼が食えないってか」


 無理やり僕の口に入れてきた。熱くないのが救いだ。

 あーんや、間接キスは子どもの頃から何百回としている。それでも、ドキドキするから怖ろしい。


 もちもちのたこ焼きを頬張る。朝日パパ、腕を上げたようだ。


「食ったんなら、認めてしまえ」

「……小陽さん、僕とちがって、いろんなことができますし、性格も良い子です」

「ようやく話す気になったか?」

「小陽さんなら断れないですし」


 なりきりプレイを理由にした。


「だから、あたし、小陽さんに憧れてるんです。ずっと一緒にいると、彼女のすごさがわかりますから」

「ふーん、尊敬なんだなあ」


 朝日は僕を一瞥すると。


「恋愛感情じゃないのかな?」

「……こ、小陽さん、僕、いいえ、あたしの副人格なんですよ。彼女を好きになるなんて、自分を好きになるようなものじゃないですか」

「ナルシストやん!」


 僕の小陽さんに対する気持ちが、尊敬なのか、恋愛感情なのかはわからない。

 はっきりさせてしまうのが、怖くて。


「あたし、ナルシストなんですか?」


 いかにも小陽さんが言いそうなボケをかました。

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