放課後の図書室

@neither

放課後の図書室

機械的な音と共に部員たちが楽器を片付け始めます。私、渡辺平鹿はブラスバンド部に所属していますが、部活を辞めようと考えています。引っ込み思案な私は同じ演奏グループの子ともうまく話すことができずに、高校一年生を終えようとしているからです。「この音合ってないですよね?」などといった話は出来るのですけれど「今度ライブに行くんだ!」などといった雑談にはうまく返すことが出来ないのです。(そもそも話されないので会話に入れないといったほうが正しいでしょうか?)高校生というものは放課後友達とカラオケなどに行き遊ぶのでしょうけれど、そういうことはまだ一回もできていませんし、したいとも思えないのです。


夕焼けをバックにカラスが無神経に「かあかあ」と飛んでいます。


最後に部屋に鍵をかけるのは決まって私です。「いつも任せちゃってごめんね」と気さくに話しかけてくれる人は大きな目で上目遣いと胸の前に手を合わせていました。その人は独りぼっちな私にも部活の情報を教えてくださるとても良い子です。しかし、私はその子にとって演奏グループの中では仲良し度最下位というものが感じられ、あまり仲良くすることができませんでした。「いいですよ、私がしたくてしていることですし」嘘です。本当は鍵を鍵を返す人を決めなければグループで集まって返すことになってしまい、その雰囲気に自分が溶け込めないからです。「いつも本当にありがとね!」と張り付けられた笑顔を彼女は向けてくださります。ああいった生き方をすれば友達がたくさんできて高校生っぽいことのできるのでしょうけれど、自分がやるとキャラに合っていないこともそうですし、ストレスが溜まってしまいそうなのでできる子は尊敬してしまいます。他の子達が駄弁りながら楽器を持っていくのを確認すると「ガチャ」と無機質な音を鳴らして職員室に鍵を戻しに行きました。職員質は音楽室と反対方向にあるため同じグループの子もおらず、演奏グループごとで終わる時間が異なるため職員室への道は誰もおらず自分の足音だけが空気を響かせます。職員室に鍵を戻した後図書室で時間をつぶすのが私の恒例行事になっています。私の親は私が早く帰ることに対して心配しており少し遅く帰り、友達と遊んでいたことを伝えますと安心した顔を見せます。夕焼けで赤く照らされた図書室というものは神秘的でその空間が地球のどこかに永遠に存在しているように感じられます。しかし、その日はいつもと違う感じがしました。図書室の当番が変わったのか先生が点検をしていないのか分かりませんが普段はしっかりと閉められたドアが少し開いていたり、閉められているはずの窓から風の音がしたり、人がいる気配がしました。そのまま帰ろうとも考えたのですが普段は誰もいない図書室に誰かがいるという興味本位が買ってしまい図書室を除くことにしました。


「よお、渡部か、お前いつもここに来るの?」


「部活が終わったrよく来ます」


いきなり話しかけられてしまって内心はビックリしているのですけれど顔に出すと恥ずかしいので冷静を装いつつ言います。


「ああ、お前ブラスバンド部だったけ?」


「はい、もうやめようと思っていますが」


友好的に話してくださる紫澤華菜さんは窓から顔を出しておりその前には本がどっさりと乗せられていました。


私が立ったままでいるのを見て「まあ座れよ」と彼女が言います。


「なんで今日は図書室にいらっしゃるのですか?」


と聞けずにカバンから本を出し読み始めてしまいました。


夕日をバックにカラスがかあかあと鳴いたあと


「なあ、自殺って良いことだと思うか?悪いことだと思うか?」


と首をかしげながら言いました。


「いきなりどうしたのですか?」


一拍おいて(変える)


「私の祖母が自殺で亡くなちゃったんだけど両親はそれを病気で亡くなったことにして隠してるんだよね。公に言わないのはまだ分かるんだけど嘘をつくほどかなと思ってさ。あと、今ここから落ちて死んだら私も祖母のところにいけるのかなと思ってね」


「三階から落ちただけでは骨折するぐらいで終わってしまうと思いますよ。本当に死にたいんだったら7、8階くらいの高さから落ちることを推奨します。中途半端な高さから落ちても植物人間になってしまうだけですしね。」


普段業務連絡しかしないせいでしょうか、こういう話になると頭の思考が停止してしまって口から勝手に言葉が出てきてしまいます。


「そうなのか、ここから落ちても死なないのか」


窓から身を乗り出して下を見ながら彼女は言う。


「で、さっきの質問何だけど自殺は善か?悪か?どっちだと思う」


「やっぱりよく分からないです」


「そうか、、、」


「ただ、紫澤さんが死んでしまったら自殺の善悪について考えることも答えを出すこともできないですよね。その答えを見つけるために生きてみてはいかがでしょうか?少なくとも私は紫澤さんに死んでほしくないです。同じ学校から自殺者が出るなんて嫌ですしね」


きっと彼女は祖母の自殺を肯定してほしくて私に質問してきたのでしょう。


ただ、私は無責任に人の意見を肯定することは性格上できないのです。


「生きなきゃ答えを出せないか、考えたこともなかったよ。渡部ありがとな」


そのはにかんだ表情が夕日に照らされてきれいでした。


「紫澤さんのお役に立てたならよかったです。」


自分以外の足跡と「かあかあ」と鳴くカラスは少しだけ私の心を温かくさせました。

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