第三章 粛清式
第53話 鎌倉幕府の高転び
始めに感じたのは、香の匂いだった。
然し部屋の中を見回しても、香炉は見当たらない。客が入る前に
六畳程度の狭い部屋で、板張りの床に
文机の上には、色々な物が置いてあった。馬手から『三好経世論』の写本。何の変哲もない秤。加えて銅銭が、三十枚ほど重ねて積んである。
眼前には、小さな炎。
燭台の蝋燭に灯された炎が、暗闇の中で橙色の光を発している。
小さな灯りの先には、円座が何枚も高く積まれていた。
懐かしい……この部屋に来たのは、何ヶ月ぶりだろう?
奏は円座の上に座り、顎に手を当てて黙考する。
傅役が蛇孕村を追放される前だから、現実の世界であれば、半年ぶりくらいだろうか。
此処は蛇孕神社の一室。奏の勉強部屋と言うべき場所だ。奏は子供の頃から、三日に一度は蛇孕神社に通い、この部屋で傅役の講義を受け、本家屋敷の庵に戻り、学問の復習に励んでいた。学問を楽しいと感じた事はないが、傅役の講義は楽しかった。作事や普請の講義が、途中から桶狭間合戦や長篠合戦の話に脱線し、
軽く文机を指で押すと、堅い木の感触がする。
自分の指を圧する感触。
仄かな香の匂い。
まるで現実のように嗅覚も触覚も働くが……これは夢だ。
これは
明晰夢とは、自分が夢を見ていると、夢の中で自覚している夢だ。奏は滅多に夢を見ないが、マリアから聞いた話と合致している。
然し確固たる自信がない為、獺に尋ねてみた。
「これは夢ですよね?」
「そうだ。これは夢だ」
高く積み上げられた円座に座る獺が、堂々と答えた。
「よく夢の世界だと気づいたな? 嗅覚や触覚から違和感を覚えない筈だが?」
「自分でも不思議なんですけど……全く実感は湧かないのに、『これは夢だ』と心が訴えかけてくるんです」
「……」
「いや、頭が訴えかけてくるのかな? 本当に不思議ですね」
奏は首を傾げて、今更ながらに己の頬を
「痛いような……痛くないような……あれ? 目覚めない?」
「安心しろ。目が覚めれば、明晰夢だと自覚できる。夢の内容を覚えていたらな」
「覚えてないと、意味がないんですけど……」
「意味があるかどうかは、お前の今後の行動で決まる」
獺は神妙な様子で答えた。
「処で奏……今がいつか分かるか?」
「現実の世界の『今』ですよね?」
「そうだ」
「……慶長六年の六月中旬から下旬」
奏は沈思黙考した後、自信がなさそうに答えた。
「一応、理由を聞いておこう」
「先生が獺の姿をしています」
「……」
「死んだ筈の
「正解は……私にも分からん」
「おい」
文机を軽く叩いて、ダメウソに突っ込みを入れた。
「おそらくお前の答えで正しい。六月の中旬以降でなければ、辻褄が合わないからな。然し正確な日時は、私にも分からない。今頃、本物の私は『
「どういう意味ですか?」
「先ずお前の誤解を訂正しておこう。これは符条家の妖術――『
「……」
「抑も私は、本物の符条巴ではない。お前の夢が作り出した存在。お前が記憶し、お前の考えた通りに動く獺。つまり私の発する言葉は、お前自身の言葉。『符条巴の眷属』という虚像を借りた、お前の知る言葉だ」
「……つまり僕は、夢の中で自問自答していると?」
「流石だな。理解が早くて助かる。ああ……これもお前の言葉だ。自画自賛だな」
「僕は自画自賛なんてしませんよ。ああ……これも夢の中で謙遜しているだけなのか。ややこしい……」
奏は腕を組んで、端正な顔を顰めた。
「あれ? でもおかしくないですか? 確か『
仮に――と獺が前置きを据える。
「現実の世界で、本物の私とお前が
「ですよね」
「つまりこれは、お前の願い事ではない。蛇孕村の外の誰かが、『薙原奏に明晰夢を見せたい』と願い、本物の私が願い通りに叶えた……と考えるべきだろうな」
「外界に先生の仲間がいると?」
「仲間か手下か知らないが、符条家の妖術を理解したうえで、『
燭台の灯りを間に挟み、奏と獺が会話を続ける。
「もう一つ」
「?」
「先程、正確な日時は分からないと答えたが……現実の世界で、お前に何が起きたのか。それなら分かる」
獺は強い口調で言い切った。
「お前の精神に打ち込まれた楔が外れて、一時的におゆらの支配から脱している」
「どうして分かるんですか?」
「おゆらから『
「蜜柑が焙烙玉に見えるかもしれないとか」
「それだ。おゆらに精神を操作された状態で、本物の私が『
「……そうですね」
奏は納得した様子で肯定した。
「加えてもう一つ」
「?」
「現実世界のお前は、相当に追い詰められている」
「……」
「一時的とはいえ、用心深いおゆらが『
「おゆらさんに抗う術はないと?」
「抗うも何も……お前は、おゆらの目的の手掛かりすら見つけていない。目的が分からなければ、相手の戦略を想像する事もできない。現実世界のお前は、『
「……」
「おゆらの目的を知らされた時には、何もかも手遅れ。希望の光を失い、絶望の闇に閉ざされる」
「……」
奏は青褪た顔で俯いた。
おそらく獺の言う通りだろう。
情けない事に、状況を打開する手立てが全く思いつかない。抑もおゆらと知恵比べで勝つ自信がない。
「一体、どうすれば……」
「足掻け」
「え?」
「足掻け
「……」
「まだ現実世界のお前は、最悪の結末を迎えていないのだ。現実世界のお前には、ほんの僅かでも未来を変える力がある」
「未来を変える力……」
「全ての人間が持つ力。最後まで諦めない精神力。明日を変える勇気だ。これも朧の影響か? お前も前向きになったな」
「どうでしょう……ていうか、これも自分の言葉なのか。本当にややこしいな」
奏は困り顔で微笑む。
本物の符条が、奏を諭しているわけではない。奏が夢の中で、現実に挫けそうな自分の心を奮い立たせているのだ。
「おそらく本物の私も足掻いているのだろう。蛇孕村に朧を招いたり、お前に明晰夢を見せたり……不確かな事ばかりしている。不確定要素を一つでも多く積み上げて、おゆらの野望を阻止したいのだろう。全く……出来の悪い弟子を持つと苦労する」
「先生……」
「本物の私の話だぞ。今の私の言葉に感動すると、お前の自己陶酔になるからな」
奏が感動で声を震わせると、獺は冷静に指摘した。
「偖……いい加減に、本題に入ろう。お前は絶望的な未来を回避する為、おゆらの目的を知らなければならない。おゆらの目的を知らなければ、対策の立てようがないからな」
「はい」
「では、おゆらの目的とは何か? 考えてみろ」
学問の講義のように、獺は奏に思考を促す。
「
「お前の知るおゆらは、根拠のない与太話を信じて、無駄な労力を費やす女か?」
「……」
奏の知る世話役は、無駄な行いを嫌う。
蛇神崇拝の根幹に関わる事柄とはいえ、
「結論から言おう。おゆらの目的は、薙原家の高転びを防ぐ事だ」
「……は?」
予想外の言葉に、奏は唖然とする。
「薙原家の高転び? マリア姉が下克上で上座から
「そうだな。本能寺の変のように、マリアが誰かに裏切られて、
「それは……」
「おゆらはマリアを現人神の如く崇拝している。それゆえに神の手を煩わせない統治を思い描いている筈だ」
「マリア姉の手を煩わせない統治……確かにおゆらさんの考えそうな事だと思います。少なくとも預言の成就よりは、説得力がありますね」
獺と会話を続ける事で、少しずつおゆらの目的に近づいている。本物の符条は、奏におゆらの目的を知らせる為、奏に明晰夢を見せているのか。
「おゆらの目的を知る前に、高転びの因果を思い出さなければならない。子供の頃に教えた筈だが……すでに忘れているだろうな」
「すみません」
「お前は悪くない。おゆらが妖術を用いて、租税貨幣論とスマムを思い出さないようにしていただけだ」
「それで『三好経世論』の写本が置いてあるのか」
奏は写本を手に取り、ぱらぱらと頁を
「秤を見ろ」
「ん?」
奏は写本を持ちながら、秤に視線を移す。
「馬手が私の皿。弓手がお前の皿としよう」
「おおっ――」
忽然と宙に浮いた二枚の銅銭は、かたんと左右の皿に落ちた。銅銭の重さは変わらない為、秤が一方に傾く事はない。
「これも妖術ですか?」
「いや、お前の夢の中だからな。基本的に何でもありなのさ」
奏の問いに応えると、獺は話を進める。
「見ての通り、私の皿とお前の皿に銅銭を一枚置いた。これで私の資産は銅銭一枚。お前の資産も銅銭一枚だ」
「そうですね」
「此処で問題。どうすれば、二人の資産を増やせる? 残り二十八枚の銅銭を使わず、確実に二人の資産を増やす方法を述べよ」
「残りの銅銭を使わず……」
奏は小さく呟いて、二十八枚の銅銭と二枚の皿を見比べる。
「……確実に資産が増えればいいんですよね?」
「そうだ。確実に増やせ」
獺は『確実』という言葉を強調し、奏に「商いや投機など、
「銅銭に限らず、資産が増えればいいと」
「ああ」
「僕は権力者で構わないですか?」
「お前は、薙原本家当主の許婚。権力者以外の何物でもない」
「それなら簡単です。僕が非営利団体――薙原家を設立します」
「ほう」
「『銭』は薙原家に出して貰う。どうせ非営利団体ですから。永遠に赤字で構いません。つまり――」
奏は袖口に右手を入れ、茶匙を二本取り出す。
「こういう事です」
二本の茶匙を秤に載せた。
双方の皿の上には、銅銭一枚と茶匙一本が置いてある。
「この茶匙は、薙原家の資産。薙原家の資産を僕と先生に移し替える」
「茶匙を銭に換えると?」
「権力者の僕が、茶匙を徴税の対象物に定めました。今日から茶匙も徴税の対象物。蛇孕村では、茶匙を通貨として使います」
奏は獺を見据えて、平然と答えた。
「勿論、これは例え話。別に胡瓜でも山芋でも構いません。蛇孕村の住民が、奪われて困らないものなら何でもいい。そのうえで、薙原家の資産を僕達の資産に替えます」
「然し薙原家の資産も無限ではないぞ。蛇孕村の住民に税を課すのか?」
「まさか。民を苦しめる事なんてしませんよ」
奏は肩を竦めて、「徴税による財源の確保」を否定する。
「蛇孕村の供給能力が許す限り、薙原家は損失した資産と同額以上の負債を増やす。薙原家の負債が増えれば、同額の資産が増える。誰かの純資産は誰かの純負債。誰かの赤字は誰かの黒字。非営利団体――薙原家が自国通貨建て国債を発行し続け、蛇孕村の供給能力を高めれば、変動為替相場制を維持する限り、薙原家の財政破綻は有り得ない」
「……」
「三好長慶のアトランティス建造と同じです。長慶の場合は、非営利団体――日本政府を設立。日本政府の支出という形で、アトランティスの建造費用を賄った。公方が京から追放されても、何も問題はない。長慶が証文に一筆添えるだけで、莫大な銭が創造される。魔法みたいな話ですけど……当たり前の事なんですよね。誰かが銭を借りないと、現世に銭が生まれない。それなら民の禄(財産)と寿(生命)を守護(安全保障)・安堵(権利保障)する非営利団体――日本政府から銭を借りろ。日本政府が借用証書を発行し、それを通貨に換えて使う……というだけですから」
「……国債の償還は? 『借金を返せ』と恫喝し、民から消費税を
「悪魔崇拝者じゃあるまいし……そんな馬鹿な事しません。国債の償還に税を充てたら、その分の銭が現世から消えてなくなります。素直に借換債を発行しますよ。借換債を国債の償還費に充て、
つらつらと答えると、獺は満足そうに笑った。
「よく覚えていたな」
「子供の頃から先生に叩き込まれましたからね。『
珍しく奏は、得意げに言い放つ。
実際、国民経済学と算勘作事は、奏の得意分野である。有職故実や古文経学は、得手とも不得手とも言えない。奏の不得意分野は、学問より武芸であろう。
「銭とは、負債の一種に過ぎん。人間や妖怪がいれば、無限に創り出せる。制約があるとすれば、物価上昇率。国内の供給能力に他ならない」
「……」
「然しフラスコ・ザビエルが日ノ本に来訪するまで。三好長慶が『スマム』を解読するまで。『スマム』の翻訳書と『三好経世論』の写本が出回るまで。日ノ本の民は、銭を物々交換の道具だと思い込んでいた」
『スマム』とは、十六世紀初頭にイタリアの数学者――ルカ・パチョーリが記した世界で最初の簿記の教科書だ。正式名称を『数学、幾何、比及び比例全書』と言い、全書という意味で『スマム』と略される。
中世イタリアで発達した複式簿記は、フラスコ・ザビエルが三好長慶に『スマム』を献上すると、畿内から全国各地に広まった。複式簿記は複雑な取引を記録し、リアルタイムで損益を計算できる。豊臣家の奉行衆は複式簿記で会計監査を行い、二十万近くの軍勢の兵糧や馬の飼料、武具の調達を可能とした。
複式簿記の影響は、財政の監査や兵糧の調達に留まらない。『スマム』を解読した長慶が、『銭は負債の一種に過ぎない』と気づき、『スマム』の翻訳書と租税貨幣論に基づく国家経営の指南書――『三好経世論』を出版。日本中で飛ぶように売れた。
「当世であれば、『商品貨幣論』を信じる者など、悪魔崇拝者と一蹴される。然し昔の諸人は違った。ゆえに鎌倉執権家と室町将軍家は、高転びを招いたのだ」
「鎌倉執権家と室町将軍家の高転び……」
「茶匙を仕舞え」
「あ……はい」
獺に指摘されて、茶匙を懐に戻す。
再び銅銭の山から、銅銭が宙に浮かび上がる。今度は四枚。合計で六枚の銅銭が、双方の皿に載せられ、秤は均衡を保つ。
「馬手は鎌倉執権家の皿。弓手は日ノ本の民の皿だ」
「……」
「
十一世紀まで博多で使われていた銅銭が、十二世紀の半ばから畿内でも使われるようになった。博多の権力者が「銅銭が欲しい」と考え、債権の回収や徴税の対象物に銅銭を据え、地域通貨として使用する。それが畿内の寺社勢力に広まり、
「政府の支出に外貨を組み込んでる……」
「大凡の者共が、『財源は税』だと思い込んでいた頃の話だ。加えて当時の日ノ本は、青銅の生産に必要な
奏が嘆息すると、獺が冷静に諭す。
「源平合戦で平氏は滅亡。源頼朝は鎌倉に
「当時の日ノ本は、飢饉続きと聞いています。徴税の対象物を限定すると、御家人も困窮してしまう。鎌倉執権家としても、苦肉の策だったんでしょうね」
「そうだな。然し式目の中に、鎌倉執権家を滅亡に導く一文があった」
「一文?」
「式目の第五条――諸國地頭令抑留年貢所當事(諸国地頭ノ年貢当所ヲ抑留セシムル事)。その法文の一つ。年貢の不払いについて。少額ならば速やかに払うべし。然れど多額であれば、三年の内に払うべし。飢饉で困窮する御家人を救済する為、年貢未払いの三年猶予を認めたのだ」
「それは……悪い事ではないですけど、法文に『飢饉の折』と書かれていない」
「その通り。法文に『飢饉の折』と記されていない為、年貢を払える者共が、年貢支払いの三年猶予を申し出て、密かに富を溜め込む。蓄えた富を他の者に貸し付け、利息分の富を溜め込む。三年後に年貢を支払い、再び年貢支払いの三年猶予を求めて……を延々と繰り返したのさ」
鎌倉執権家の皿から銅銭が一枚浮かび上がり、日ノ本の民の皿に落ちた。鎌倉執権家の皿が上がる。
「他の者とは?」
「寺社に
「借上……確か土倉の前身ですよね」
「ああ。元は公家や寺社に仕える
「……」
「身分の低い借上だが、承久の乱を境に、彼らの立場は一変した。西国の土地を手に入れた
「……」
「加えて土倉は
「うわあ……」
奏は、御家人に憐憫の情を覚えて呻いた。
「鎌倉殿の頃は、鉄の農具が諸国に普及し、作物の収穫量が増えていた。皮肉な事に飢饉で苦しむ村落を復興させ、新田開発に取り組んだのは――」
「鎌倉執権家ではなく、御家人に銭を貸した土倉だった」
獺の言葉を途中で遮り、奏は答えを告げた。
鎌倉時代の中期から、
是非を問うなら、迷う事なく是。
然し奏は、不満そうに眉根を寄せた。
「飢饉の備えや村落の復興が目的なら、鎌倉執権家が銭を出せばいいのに……」
「鎌倉執権家なりに対策は講じていたさ。難民救済の為に余剰米を放出。寺社に銅銭を出して、国土豊年の祈祷を行う。鎌倉の大仏殿建立も対策の一環と言える」
「単発の財政出動ばかりじゃないですか」
「『商品貨幣論』を盲信する鎌倉執権家は、計画的な財政拡大を拒んだ。寧ろ公家寺家社家が銭を出し合い、村落の復興や新田開発に取り組む姿に喜んでいただろう」
「……成程。だから御成敗式目の第五条に、判例を追加しなかったのか。鎌倉執権家は、御家人の救済を仮想敵に任せたと……そんなのうまくいくわけない」
奏の端正な容貌が、鎌倉執権家に対する失望で歪む。
「鎌倉執権家は、悪魔崇拝者の集まりですか? 御家人の滅亡を望んでいたとか?」
「流石にそこまでは考えていないと思うぞ。然し『商品貨幣論』から抜け出せない時点で、凡下の商人と五十歩百歩。朝廷や寺社の方が、武家より早く『銅銭の年貢納入』を認めていたからな。銅銭や土倉の扱いに慣れていたのさ」
再び鎌倉執権家の皿から銅銭が浮かび上がり、ふわふわと宙に浮かぶ。
「鎌倉執権家も途中で拙いと気づいたのだろう。慌てて徳政令を発布し、債務の免除や土地の売買を禁止するも、貸し手の土倉はおろか、借り手の御家人からも反発を買い、即座に撤回している」
「債務を免除されても、鎌倉執権家が銭を出してくれないと、御家人は銭を借りるアテを失うだけ。鎌倉執権家の『緊縮財政』が続く限り、御家人は土倉を頼るしかない」
「『緊縮財政』を続ければ、貧富の格差も広がる。銭の扱いに慣れた者は富み、銭の扱いに疎い者は貧しく……御家人や
「悪党……」
「所得格差の拡大は、確実に治安の悪化を招く。没落した御家人や郎党。都市に住み着く
宙に浮いた銅銭が、日ノ本の民の皿に載せられた。
銅銭一枚が鎌倉執権家の皿。銅銭五枚が日ノ本の民の皿。鎌倉執権家の皿がぐんと上がり、日ノ本の民の皿が下がる。
「
鎌倉執権家の皿から最後の一枚が宙に浮かび、日ノ本の民の皿に移動する。
「鎌倉執権家は高転び」
鎌倉執権家の皿には、一枚も銅銭が残されていない。鎌倉執権家から、全ての資産が日ノ本の民に移動した。
「感想は?」
「鎌倉執権家の自業自得。政府が民間に頼り過ぎた結果。小さな政府の末路」
「意外に辛辣だな」
「日ノ本で最大の経済主体が、計画的な財政拡大を拒むなんて有り得ません。統治者が民を見捨てたも同然です。鎌倉執権家に政を担う資格はありません」
実直な奏は、鎌倉執権家の拙い政に苛立ちを覚える。鎌倉執権家が財政拡大を拒んだ所為で、多くの民が飢えて死んだのかと思うと、不快感を隠しきれない。
「ああ……でも鎌倉執権家から日ノ本の民に銭が流れたのか。つまり民の純資産は増えている。鎌倉執権家が没落した代わりに、民の暮らし向きは良くなったのかな?」
「いや、寧ろ前より悪くなった」
獺は冷たい声で微かな希望を否定した。
「確かに土倉のお陰で水田二毛作が広がり、作物の収穫量も増加した。鎌倉執権家が銅銭を徴税の対象物に加えた為、凡下の商人も銅銭で商取引を行う。
「どうしてそんな事を?」
「銅銭の価値を高める為だ。例えば、銅銭百枚と米一俵を
「悪魔崇拝者が、
奏は両腕を組んで考え込む。
自己実現的予言と合成の誤謬だ。
誰かが誤解に基づく状況認識を広めて、多くの者に誤解に基づく状況認識を信じ込ませる。誤解に基づく状況認識を信じ込んだ者達が行動を始め、当初の誤解に基づく考えを実行してしまう。
社会科学では、これを自己実現的予言という。
加えて多くの人々が「銅銭が不足するかもしれないので、不安を解消する為に貯めておこう」と、個人の観念で合理的な行動を取る。然し個々が合理的な行動を起こした為、現実の商取引で銅銭が足りなくなる。個々で合理的な行動が合成され、全体に不都合な結果を齎す。
同じく社会科学で、これを合成の誤謬という。
自己実現的予言と合成の誤謬を理解していれば、
「当然、他の土倉や有徳人も『竹中』の真似を始める。銅銭を借りた御家人や村落は、土倉や有徳人に逆らう事ができず……村落は、年貢米の残りを安値で買い叩かれ、手許に残る僅かな銅銭すら借銭の利子で奪われる」
「……」
「職人や商人は座を形成し、土倉や有徳人に対して自衛を始めた。然し村落は、寺社勢力に保護された職人や商人(中小零細の個人事業者)と違い、田畑で作物を育てる事しかできない。『銭高米安』が続く限り、土倉の支配から逃れられない」
「悪魔崇拝者が卑劣な真似を……」
二の腕を強く握り締め、憎悪の念を吐き捨てた。
自分で水の手を切りながら、水不足で苦しむ村落に高値で水を売り込む悪徳商人と変わらない。奏が最も嫌いな類の人間だ。
「実際、鎌倉殿の頃は、百年近くも『銭高米安』が続いた。鎌倉殿の頃は、
「……」
「鎌倉殿の頃、日ノ本の人口は増減していない。承久の乱から元寇まで大きな合戦が起きていないにも拘わらず。米の生産量が増えたにも拘わらず。日ノ本の民は増えていない。御家人の家督相続争いや荘園の奪い合い。土倉による銭の独占。斯様な悲劇に多くの民が巻き込まれ、無為に命を落としたのだ」
獺の推論を聞いた後、奏は秤に視線を移す。
「銭はあるのに……銅銭と米が、大凡の民の手許から離れていく。
奏の想像通りであれば、地獄としか言いようがない。
計画的な財政出動を拒む鎌倉執権家に代わり、土倉や有徳人が積極的に投資した。そのお陰で飢饉を克服し、日本の供給能力を高めるも、土倉や有徳人は非営利団体ではない。御家人や村落に莫大な見返りを求めた為、民に経済的な負担を強いる。追い詰められた御家人は、家督相続争いや荘園侵略で債務の返済に活路を見出す。然し村落は土倉に銅銭と米を収奪され、冬を越せずに死ぬしかない。
その間も土倉は投資を続けた筈だが、富裕層が銅銭と米を独占した為、
鎌倉執権家も土倉も意図したわけではないだろうが、人類滅亡を目論む悪魔崇拝者も斯くやという所業だ。朝廷や寺社も貧富の格差を放置していたわけだから、鎌倉執権家と同罪である。
「鎌倉執権家が主導する『緊縮財政』。統治者の怠慢が招いた『格差拡大』。外貨目当ての『自由貿易』。土倉や有徳人の収奪を許す『市場原理』。悪魔崇拝の内、四つの罪を備えた事にある。これで民が豊かになれば奇跡ですよ」
結局、日ノ本の民の皿に資産が移動しても、貧富の格差が拡大しただけ。多くの民に銅銭や米が行き渡る事はなかった。
「仮に奏が鎌倉執権家であれば、『竹中』をどうする?」
「悪魔崇拝者の処分より、財政政策の転換が先です」
奏は神妙な面持ちで断言した。
「先ず
「玉? 石を磨いた玉か?」
「はい。蛇孕村の応用です。別に紙切れでも木屑でも構わないんですけど、玉の原材料ならその辺に落ちてますから。石を磨く職人を育成できれば、紙幣を発行するよりも、玉の方が大量生産に向いています。勿論、価値に応じて等級分けしますけど、玉を徴税の対象物に組み込み、中長期的且つ計画的な財政拡大の目処を立てます。そのうえで御成敗式目の第五条に式目を追加。大幅に年貢率を下げて、飢饉の折は年貢を免除。土倉や有徳人の米や玉の買い占めも禁止。村落の経済的な負担を減らし、余剰米や玉の買い占めを阻止すれば、悪魔崇拝者から村落を開放できます。それに人手不足が解消されてしません。有効需要を満たせば、鎌倉執権家の主導で日ノ本の供給能力を引き上げ、労働者の実質賃金も引き上げられます。当然、日ノ本の人口も増えるでしょう。鎌倉殿の頃だと、『スマム』の翻訳書や『三好経世論』の写本を普及できないから、取り敢えずはこんな処かと」
「……」
「次に民の禄と寿を安堵します。町割や村落の復興。道や堤や湊の普請。寺院の作事や普請。他にも失業者に様々な仕事を任せて、安定した所得を得て貰います。マリア姉から聞いた話ですけど、日ノ本は世界で最も災害が多い国です。世界で起こる大地震(震度五強)の二割は、日ノ本で起きています。つまり世界で大地震が起これば、五分の一の確立で日ノ本です。地震だけではありません。
「……」
「後は寿の安堵……
「見事な政策だと思うが……『竹中』の処分は?」
奏が夢中で政策を語る為、獺は話を戻した。
「財産没収のうえ、高野山に追放」
「罪状は?」
「僕を不快にさせたから」
「それは……どういう事だ? 暴君になるつもりか?」
獺が驚いて尋ねると、奏は眉を顰めた。
「『竹中』を法で裁く事はできません。『竹中』は救い難い悪魔崇拝者ですけど、法に基づいて富を蓄えています。勿論、役に立たない法は改正しますけど、その前に『竹中』を『僕(統治者)に対する不敬罪』で罰します」
「……」
「誰が統治者になろうと、政の形を変えたとしても、法を悪用する者は必ず出てきます。法で裁けない者を民が罰すれば、
「『竹中』は高野山に追放でいいのか? 不敬罪なら打ち首にしないと、
「それは武家の理屈です。天下泰平を望む三好長慶が、悪魔崇拝者の粛清を始めて、却って国内総生産を落とした事はよく知られています。彼らを殺しても、国内の生産と支出と所得が減るだけです。お寺に預ければ、悪魔崇拝者も改心するんじゃないですか?」
「そんなに都合良くいくか?」
「仮に改心しなくても、一生高野山から出しませんので。大凡の民に何の影響も与えられません」
「ふむ……まあ、そうだな」
三好長慶と薙原奏の違いは、悪魔崇拝者の対処法だ。三好長慶は問答無用で処刑した。然し奏は、終身刑で構わないと言う。武家の面目や中二病の美意識に囚われず、民の生活を第一に考えるべきだ……と奏は考えている。
尤も「無礼者は殺して構わない」が、戦国乱世の常識だ。悪魔崇拝者であろうとなかろうと、外界の者達は殺し合いに明け暮れている。
「でも不思議ですね」
「不思議とは?」
「日ノ本の歴史や経済が、おゆらさんの目的に繋がるんですか?」
「……」
奏の問い掛けに、獺は何も応えない。
「勿論、おゆらさんの目的に繋がるから、先生の妖術で明晰夢を見てるんですけど……何か釈然としないというか」
「何度も言うが、私は本物の符条巴ではない。お前の創り出した虚像だ。お前の知らない答えを出しようがない」
「そうですよね……」
奏は困り顔で『三好経世論』の写本を見遣る。
「……抑もなんでおゆらさんは、租税貨幣論やスマムに関する記憶を消さなかったんでしょう? 特定の記憶を思い出さないように操作するなんて……」
おゆらにしては、遣り方が手緩い。
「その質問なら答えられる」
「?」
「お前から租税貨幣論やスマムに関する記憶を消し去ると、先程のような政策すら思いつかなくなる。おゆらはお前を『
「僕は王様になりたいなんて、一度も考えた事はないんですけどね」
「お前の場合、それも問題だと思うが」
「え?」
奏が驚いて瞬きすると、獺は天井を見上げた。
「ああ……もう時間切れだ」
「ええええッ!?」
「もうすぐ現実の世界で、お前が目を覚ます。今宵の講義はこれまでだ」
「ちょっと待ってください! 全然、おゆらさんの目的に辿り着けてないんですけど!」
「安心しろ。最悪の未来に行き着く前に、何度か明晰夢で自問自答できる。次は室町将軍家の話だ」
「次回予告とかいらないです! それよりもう少し時間を――」
「――」
奏が叫んでも、獺は何も応えない。
暫時の間を置いて、奏は奇妙な夢の世界から解放された。
円座……
高転び……経済的な理由による自滅。財政破綻の事ではない。
生害……殺害。自決。
銭……貨幣
供給能力……物を造る力やサービスを提供する力
公方……足利義輝
物価上昇率……インフレ率
鎌倉執権家……北条氏を含めた鎌倉幕府の上層部
室町将軍家……足利氏を含めた室町幕府の上層部
鎌倉執権家の皿と日ノ本の民の皿……鎌倉時代は、朝廷と鎌倉幕府の二頭体制が続いた為、正確には「鎌倉執権家の皿と東国の民の皿」である。今回は「分かりやすい例え話」として「鎌倉執権家と日ノ本の民」を比較した。
平大相国……平清盛
唐……宋、元、明など大陸国家の総称
博多の権力者……在地領主と博多の商人。租税貨幣論に於ける権力者とは、徴税権力を持つ統治者と債権回収能力を持つ債権者である。
公文所……鎌倉幕府の公文書を取り扱う実務機関
問注所……鎌倉幕府の訴訟を取り扱う実務機関
御家人……武家の棟梁の家人
承久の乱……承久二年(西暦一二一一年)、
御成敗式目……鎌倉幕府の法典
凡下……一般庶民
雑掌……荘園に関する訴訟や年貢の徴収などの任に当たる荘官
本所……荘園領主
西遷御家人……承久の乱で勝利した後、西国の所領を与えられた御家人
本主……合銭の出資者
土地売買の禁止……土地の質入れ禁止
甲乙人……凡下と同義語
鎌倉の大仏殿建立……鎌倉の大仏殿は、徴税と勧進で大量の銅銭を集め、質の高い青銅銭を溶かし、多くの職人の手により鋳造された。大仏殿の建立。寺院の作事や普請。仏具の奉納。大仏殿に続く道普請など、政府支出と勧進が労働者の所得に変わる。所得は消費を増やし、消費の拡大は生産の拡大に繋がる。加えて大仏殿を建立すれば、飢饉で荒廃する民の心も救えるだろう。
決して悪い事ではないが、鎌倉執権家が溶かした銅銭以上に貨幣を支出しないと、国内に流通する通貨が減少する。
印字……狼藉者。無法者。反社会勢力。
文永の役と弘安の役……元寇。蒙古襲来。
後醍醐院……後醍醐天皇
緊縮財政……悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。過剰に財政の不安を煽り、政府の支出を削減。意味もなく税率を引き上げ、PB黒字化目標を設定し、人類を貧困化させて滅亡に導く。
主権通貨国……変動為替相場制の独自通貨国であり、自国通貨建て国債しか発行しておらず、国内の供給能力が高い国家。財政破綻の危機が存在しない為、財政的な理由で諸外国や多国籍企業に政治的な介入を許さず、国民の主権を維持できる国家。あくまでも『国民の主権を維持できる国家』であり、本当に国民の主権を維持できるかどうかは、民主制の国民主権国家に於いて国民次第である。
純資産……資産総額から負債総額を差し引いた金額。貸借対照表は資産、負債、純資産しか存在しない。純資産は、負債と共に貸方に記載される。
鄙……地方
竹中……典型的な悪魔崇拝者。架空の人物。
供給能力不足……インフレーション。国家・地域的に物価が上がる事。本来の供給能力(潜在GDP)が総需要(名目GDP)を下回る事。基本的に国民経済が健全な状態。人間の欲望(需要)は終わりがない為、政府がデフレギャップを埋め続ける限り(財政拡大を続ける限り)、国家はインフレーションを維持する。
総需要不足……デフレーション。国家・地域的に物価が下がる事。本来の供給能力(潜在GDP)が総需要(名目GDP)を上回る事。基本的に国民経済が異常な状態。人間の需要(欲望)は無限に等しい為、余程の事がない限り、国家はインフレーションを維持する。然し世界恐慌や疫病の蔓延など、一時的なデフレーションに陥る事もある。政府が緊縮財政(政府支出の削減と増税)を推し進め、規制緩和や構造改革(市場の参加者を増やして値下げ競争を激化)すれば、意図的にデフレーションを起こす事も可能。
格差拡大……悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。世界的に貧富の格差を拡大させ、人類を貧困化させて滅亡に導く。貧富の格差が拡大すればするほど、経済的に貧しい人々が増えていく。世界中で貧困層が増加すると、商売する相手がいなくなる為、最終的に富裕層も全滅する。
自由貿易……悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。関税など国家の介入や干渉を排除して、国民が自由に貿易を行い、人類を貧困化させて滅亡に導く。一瞬、良い事のように思うかもしれないが、国家間の関税を撤廃する為、自由貿易を行う国家間で安物が出回り、国家間の商品値下げ競争が激化。その結果、先進国が途上国に実質賃金を合わせなければならなくなり、先進国も途上国も併せて衰退する。
市場原理……悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。低福祉低負担、自己責任をベースとし、小さな政府を推進。政府が市場に干渉せず、国民に最大の公平と繁栄を齎すと虚言を撒き散らし、人類を貧困化させて滅亡に導く。『国民の生命と財産』を保証する為に設立した『非営利団体である政府』を小さくしても、国民の経済的な負担が増えるだけ。独裁政権ならいざ知らず、民主制の国民国家で小さな政府を造り上げると、弱肉強食の社会が実現するだけである。やはり政府は、小さくもなく大きくもなくが望ましい。精算主義や株主至上主義も市場原理に含まれる。
総需要不足の口減らし……総需要不足が続くと、「御飯を食べたい」とか「水を飲みたい」とか「服を着たい」とか「家に住みたい」という需要(欲望)すら満たせなくなる為、自殺者や餓死者が増えて人口が減少する。
実質賃金……労働者が労働に応じて受け取った賃金が、実際の社会に於いて、どれだけの物品の購入に使えるかを示す値
生産費用増大型供給能力不足……コスト・プッシュ・インフレーション。悪性インフレとも言う。インフレではあるが、国民経済に悪い影響を齎す状態。製品を作る際の費用が増加して、生産費用の増大を賄う為、物価は上昇するものの、国民の所得が増えていないので、庶民は物価の上昇に苦しめられる。
有効需要……貨幣的支出の裏付けを持つ需要。金銭的な支出を伴う欲望として、単なる欲望とは区別される。「有効」という言葉は、貨幣支出(購買力)に基づく。有効需要を増やす方法は簡単。政府が財政拡大に舵を切り、減税政策を続けるだけ。四半世紀もデフレが続く国で、政府が「経済を回せ。消費しろ」と民間に『お願い』しても、「ふざけんじゃねえよ。使う金がねえよ」と一蹴される。逆に政府が支出を増やし、国民の税負担を減らせば、政府に『お願い』されなくても、国民は勝手に経済を回す。
国内総生産(GDP)……一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額。国内総生産と国内総所得と国内総支出は必ず一致する。分かりやすく喩えると、国民が物やサービスを生産し、同じ国民から所得を得る。所得を得た国民は、同じ国民から物やサービスを買う(支出する)。これらの生産と所得と支出は、当然の如く一致する。これを三面等価の原則という。
国内総生産は、民間支出(消費+投資)+政府支出+純輸出(輸出-輸入)で求められる。政府支出が増えれば、国内総生産も確実に増える。国内総生産が増えれば、国内総所得と国内総支出も確実に増える。つまり政府支出を拡大すればするほど、国内の生産も所得も支出も確実に増える。
因みに総需要(名目GDP)は、民間最終消費支出と政府最終消費支出と民間住宅と民間企業設備と公的固定資本形成と純輸出を加えたもの。本来の供給能力(潜在GDP)は、デフレギャップを克服してインフレーションにならなければ分からない。
町割……都市の再開発
鼎の軽重……権威ある人の力量を疑い、その地位から追い落とそうとする事
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