第52話 三好経世論 現代語訳
貨幣なるもの
貨幣とは、負債の一種である。
物々交換の道具ではない。
金も銀も米も布も銅銭も、通貨ではあるが貨幣ではない。
例えば、
ここで重要なのは、筍と鰯を同時に交換するわけではなく、『信用』と『負債』が発生する『異なるタイミング』で取引が行われる事だ。
今一度、話を『春』に戻す。千満丸と千々世に筍を渡す。この時、千々世が『秋』に鰯を渡すという『借用証書』を千満丸に渡す。次に
貨幣とは、『借用証書』に書かれた『債務と債権の記録』に過ぎない。
貨幣の価値とは、供給能力が裏付ける。千々世が『秋』に鰯を捕らなければ、『借用証書』は紙屑に変わる。
即ち国内の供給能力を毀損し、貨幣の価値を低下させると、民の禄(生命)と寿(財産)を守る為に必要な、中長期的且つ計画的な財政拡大すらできなくなる。統治者ならば、絶対に避けなければならない事態である。
租税貨幣論なるもの
租税貨幣論に於いて、通貨は租税の対象物に過ぎない。国民が徴税の義務より解放される為、権力者に指し出すものを通貨という。
権力者は、価値を計る尺度として通貨を法で定め、権力者は民間人の貢献に対する報酬として通貨を支払う。権力者の建物を建てる為に民間人を徴発する際、その対価を通貨で支払う。権力者の建物を建築した労働者に対しても、対価として通貨を支払う。権力者側の人間に対しても、給料として通貨を支払う。こうして通貨が国民経済にばらまかれる。
そして通貨で計算した納税義務を法で定め、国民に強要する。市が立てば、商人に「通貨で税を払え」と要求し、関所を通る者に「通貨で税を支払え」と要求する。その結果、国民の間で通貨が必要になり、国民の多くが通貨を貯蓄する。権力者の徴税権力により、通貨に対する需要が高まり、誰も彼もが通貨を尊重する。
国民が多くの通貨を欲しがる為、民間の商取引で通貨を使う。どこの村落も納税の為に通貨を必要とする為、通貨を仲立ちに商売が行われる。
通貨なるものは、『一般人に偽造されづらい』という条件を満たしていれば、何でも構わない。紙切れでも瓦礫でも構わない。
権力者が徴税権力を強めると、通貨の需要と価値が高まり、誰もが通貨を貯め込み、デフレーションになる。
権力者が徴税権力を弱めると、通貨の価値が下がり、インフレーションになる。
つまり権力者の意思で、通貨の価値を上げ下げできる。権力者の徴税権力が健在であれば、インフレーションを抑制できる。
内乱などで供給能力が消滅し、権力者が徴税権力を失うと、ハイパーインフレーションとなる。
民間人も市中銀行から通貨を借りれば、その瞬間に新規貨幣が創造される。これを貨幣の信用創造という。
全ての経済は需要と供給に基づき、実物、或いは環境的な限界がある。政府に金銭的な制約がなくても、供給能力不足によるインフレ率が、財政的な限界となる。供給能力は、政府や民間の投資で強化される。供給能力の強化は、国債発行の上限を押し上げる。
政府の赤字は、その他の経済主体の黒字である。誰かの赤字は、誰かの黒字。誰かの純資産は、誰かの純負債。現世にあるものは、この
主権通貨国なるもの
変動為替相場制の独自通貨国で、自国通貨建て国債しか発行しておらず、国内の供給能力が高い国。財政破綻(債務不履行)の恐れがなく、為替取引や国債取引で外国勢力に主権を脅かされる事はない。
供給能力が低い国が固定相場制を維持したければ、国民の生活に必要な物を外国に頼るしかなく、貿易赤字(経常収支の赤字)が拡大する。その結果、為替レートを維持する為に、外貨準備を取り崩すか、他国から外貨を借りるか。或いは緊縮財政を行い、国民を貧困化させて、外国の物を買わせないようにするか。
供給能力の低い国が固定相場制から変動為替相場制に移行すると、自国通貨が暴落する為、財政破綻するしかなくなる。
統治者は主権通貨国を目指すべし。
固定相場制なるもの
権力者が「金一両と1クルザードを両替せよ」と定めれば、金一両と1クルザードが両替されるわけではない。金とクルザードの両替の需要と供給を考慮しなければならない。金が買われてクルザードが売られれば、金高クルザード安となる。逆も然り。この世の如何なる権力者であろうと、多国間の通貨の取引を都合の良く管理できない。それゆえ、固定相場制を維持する為には、貿易黒字国は貿易収支(経常収支)の黒字分、外貨を買い上げ、外貨準備を積み上げる。貿易赤字国は赤字分、外貨準備を取り崩し、自国通貨を買い戻す。
詳しく説明する。
日本とポルトガルが金一両1クルザードの両替に合意したとする。
日本の商人がポルトガルの商人に、金十両分の鉄砲を売却した。然しポルトガルの商人は金十両を持ち合わせておらず、10クルザードの証書を日本の商人に渡す。この時、日本は金十両の貿易黒字。ポルトガルは10クルザードの貿易赤字である。
当然、日本の商人は、10クルザードの証書を渡されても、奉公人の賃金すら支払えない。日本の商人は奉公人に賃金を支払う為、10クルザードの証書をポルトガルが持つ金と両替を求める。ポルトガル国王が日本の商人に「10クルザードの証書を金に換えるな」と要求しても、日本の商人は相手にしない。ポルトガルの国王が為替取引を捨て置けば、金が買われてクルザードを売るわけだから、金高クルザード安となる。これでは金一両1クルザードという固定相場を維持できなくなる。
ポルトガル国王が金一両と1クルザードを維持したいと望むなら、金十両で10クルザードを買い戻す。ポルトガル国王が、金を用いて自国通貨の証書を買い戻し、為替の需要と供給を一致させなければならない。ポルトガル国王が金を持ち合わせていなければ、誰かから金を借り、クルザードの証書を買い戻す。即ちポルトガルに対外債務が生まれる。ポルトガル国王が誰からも金を借りられなければ、為替レートを引き下げる。例えば、金一両を0.5クルザードに切り下げる。然しクルザードを切り下げると、余計にクルザードの証書を売る動きが生まれる。追い詰められたポルトガル国王は、緊縮財政を行う。輸入を激減させて、貿易赤字を縮小させる。ポルトガルの商人が日本より物を買えなくするのだ。即ちポルトガルの国民は、貿易赤字を縮小させる為に貧困に追いやられる。斯様な為替取引の圧力に、統治者は財政政策を制限される。それが嫌なら、国内の供給能力を引き上げ、変動為替相場制に移行すべきである。
固定相場制の恐ろしい処は、為替相場の取引を行う者共が各国政府の経済政策を操作する事だ。悪魔崇拝者共は「政府の裁量的な経済政策は許さない。国民を豊かにする為に財政拡大などすべきではない」と訴えてくる。何故、悪魔崇拝者の都合に民草が巻き込まれなければならないのか。悪魔崇拝者共は国民から主権を取り上げ、己の望む政策をさせようとしてくる。世界の国々に緊縮財政を強要し、「構造改革、規制緩和、民営化」と喚き散らし、世界各国をデフレーションやコスト・プッシュ・インフレーションに叩き込み、土地や技術を安値で買い叩く。悪魔崇拝者は、根切りにすべきである。
消費税なるもの
国民を全滅に導く悪夢の税制、其の壱である。
人であれば、誰でも買い物をする。老若男女を問わず、富裕層も貧困層も関係ない。消費者は死ぬまで消費を続ける。
例えば、消費税が10%だとしよう。年収三百万円の消費者は、所得の大半を生活費に費やす。生活費に二百万円を使うとすれば、消費税分を含めて二二〇万円。二十万円も余計に払わなければならない。年収三百万円の消費者が懸命に働いても、八十万円しか手元に残らないのだ。そのうえ、諸税を差し引かれるのだから、嫁を迎える余裕もなくなる。銭を蓄える事もできず、寺院で知識を得る機会を失い、新たな商いに手を出す余裕もなく、黙々と日銭を稼いで、手持ちの銭がなくなれば、首を吊って死ぬしかない。
対して年収五〇〇〇万円の消費者は、年収の一部しか生活費に使わなくて済む。生活費に一〇〇〇万円を消費しようと、消費税分を含めて一一〇〇万円。三九〇〇万円も手元に残る為、10%の消費税など痛くも痒くもない。諸税を差し引かれたとしても、妻子と悠々自適に暮らせる。
つまり消費税は、富裕層の貯蓄を増やし、貧困層の貯蓄を減らす。消費税がなければ、年収三百万円の消費者も銭を蓄え、地道に富を増やせる。
それを許さないのが、消費税の恐ろしさである。
加えて消費税を負担するのは、消費者ではない。
事業者だ。
税務署の職員でもない事業者が、「消費者から消費税額分の税金を預けられた」という言い掛かりをつけられ、何故か消費者の代わりに消費税を負担させられるのだ。
消費税が10%であれば、消費者の代わりに事業者が、粗利益から10%を権力者に奪われる。景気の良し悪しに関係なく、毎年粗利益の10%を奪われるのだ。事業者は権力者の徴税権力を恐れて、
即ち消費税とは、統治者が自国民に科した経済制裁に他ならない。
統治者は、国民に消費税を課してはならない。インフレ率を抑制したいのであれば、他の税を使うべきである。
インボインス制度
国民を全滅に導く悪夢の税制、其の弐である。
消費税の拡大版。売上高が一〇〇〇万円以下の事業者にも、消費税が課せられる。税務署で手続きをしなければ、インボイス制度を無視する事もできるが……その場合、発注元や取引先が控除を受けられなくなり、仕事を貰えなくなる。
詳しく説明する。
例えば、年収二百万円のアニメーターがいたとしよう。このアニメーターに製作会社が仕事を依頼する時、そのアニメーターが課税事業者か、或いは免税事業者か、自分達で確認しなければならなくなる。そのアニメーターが課税事業者の場合、粗利益の10%を消費税として納税しなければならない。十中八九、そのアニメーターは廃業し、失業者に追いやられるだろう。逆にアニメーターが免税事業者であれば、製作会社が粗利益の10%を消費税として納税しなければならない。スポンサーが製作会社の納税分を負担してくれるわけがないので、今度は製作会社が倒産し、複数の失業者を生み出す。縦しんば、スポンサーが負担したとしても、負担額は販売価格に反映される。つまりアニメの放送を完全に有料化し、アニメに関連するグッズを値上げする。自分でお金を用意できない子供や貧困層は、アニメを観るな……というわけだ。
アニメーターが負担すれば、失業者が増えて、経済成長率を抑制する。
製作会社が負担すれば、さらに失業者が増えて、経済成長率を抑制する。
スポンサーが負担すれば、アニメを楽しむ消費者の経済的な負担が増えて、経済成長率を抑制する。この時、スポンサーは納税分を価格転嫁しただけなので、別にスポンサーが儲かるわけではない。
これがアニメ業界に限らず、漫画家や小説家や音楽家や役者や建築作業員や運送業者や夫婦で経営する飲食店等々、様々な分野で同時に施行された時、どれだけ失業者が増えるのか。どれだけ消費者に負担を押しつけられるのか。どれだけ経済成長率を抑制し、どれだけの人が死に至らしめられるのか。私には想像もつかない。
消費税を廃止すれば、全て解決する話なのだが。
国債なるもの
政府が発行した期間限定利付貨幣。
それ以上でも以下でもない。
国債の償還なるもの
借換債を使うべきである。
悪魔崇拝者なるもの
「深い理由はないが、人類を貧困に追い込んで絶滅させなければならない」という教義に従い、世界に八大罪を浸透させ、人類滅亡を目指す
悪魔崇拝者が信奉する八大罪なるもの
一、緊縮財政
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。過剰に財政不安を煽り、政府の支出を削減。プライマリーバランス黒字化目標を掲げ、意味もなく税率を引き上げる。次第に国民を貧困化させ、人類を滅亡に導く。
一、格差拡大
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。世界に貧富の格差を拡大させ、人類を貧困化させて滅亡に導く。貧富の格差が拡大すればするほど、経済的に苦しむ者が増えていく。世界中で貧しい人が増えると、商売する相手がいなくなる為、富裕層も併せて滅亡する。
一、自由貿易
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。関税など政府の介入や干渉を排除し、人々が自由に貿易を行い、人類を貧困化させて滅亡に導く。良い事に思うかもしれないが、世界中の関税を撤廃する為、世界中に安物が出回り、世界中で値下げ競争が激化。その結果、先進国が途上国に賃金を合わせなければならなくなり、先進国も途上国も併せて衰退する。
一、市場原理
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。低福祉低負担、自己責任論を押しつけて、小さな政府造りを推進。政府が市場に介入せず、国民に最大の公平と繁栄を齎すと虚言を撒き散らし、人類を貧困化させて滅亡に導く。『国民の生命と財産』を保障する為に設立された『非営利団体である政府』を小さくしても、国民の経済的な負担が増えるばかりで、政府も緊急事態に対応できなくなる。株主至上主義や精算主義も市場原理に含まれる。
一、全体主義
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。権力者に従わない者を認めず、個人が権力者に異を唱える事を許さず、延々と『選択の集中』を繰り返し、人類を貧困化させて滅亡に導く。簡単に例えれば、『一人はみんなの為に。みんなで一人をぶち殺せ』という主義。『全体を救う為に、少数が犠牲になるのも止むを得ない』と喚きつつ、全体を縮小させるので始末に負えない。
一、報道管制
悪魔崇拝者の信奉する八大罪の一つ。大衆に虚偽の情報を伝え、報道管制を除く七つの大罪を浸透させ、人類を貧困化させて滅亡に導く。連日連夜、大量の虚報を発信する為、不特定多数の者達を洗脳し、破滅的な行動に追い込む。
一、選民思想
悪魔崇拝者が信奉する八大罪の一つ。自分達は神(悪魔)に選ばれた民、或いは人種と思い込み、他民族や他人種を迫害・弾圧し、最終的に全ての民族を滅亡に追い込む。息を吸うように人種差別を行い、息を吐くように民族浄化を行う。特定の民族を滅ぼす為、特定の民族の女性を誘拐し、他民族の男性と強制的に結婚させ、強制的に他民族の子供を産ませる。
一、罪務省
悪魔崇拝者の信奉する七大罪の一つ。この世全ての悪。
千満丸……
千々世……
又四郎……
孫七郎……三好康長の通称。三好元長の弟。三好長慶の叔父。魔法が使える。
供給能力……物を造る力やサービスを提供する力
貨幣の価値は、供給能力が裏付ける……正確には、供給能力と徴税権力が貨幣の価値を裏付ける
権力者……徴税権力を持つ者。債権回収能力を持つ債権者。
デフレーション……国家的に物価が下がる事。本来の供給能力(潜在GDP)が総需要(名目GDP)を上回る事。国家的に需要不足の状態。基本的に国民経済が異常な状態。人間の需要(欲望)は無限に等しい為、余程の事がない限り、国家はインフレーションを維持する。然し世界恐慌や疫病の蔓延など、一時的なデフレーションに陥る事もある。政府が緊縮財政(政府支出の削減と増税)を推し進め、規制緩和や構造改革(市場の参加者を増やして値下げ競争を激化)すれば、意図的にデフレーションを起こす事も可能。
インフレーション……国家的に物価が上がる事。本来の供給能力(潜在GDP)が総需要(名目GDP)を下回る事。国家的に供給能力不足の状態。基本的に国民経済が健全な状態。人間の欲望(需要)は終わりがない為、政府がデフレギャップを埋め続ける限り(財政拡大を続ける限り)、国家はインフレーションを維持する。
ハイパーインフレーション……圧倒的に物価が上がる事。本来の供給能力が総需要を圧倒的に下回る事。
財政破綻……政府の債務不履行
主権通貨国……変動為替相場制の独自通貨国であり、自国通貨建て国債しか発行しておらず、国内の供給能力が高い国家。財政破綻の危機が存在しない為、財政的な理由で諸外国や多国籍企業に政治的な介入を許さず、国民の主権を維持できる国家。あくまでも『国民の主権を維持できる国家』であり、本当に国民の主権を維持できるかどうかは、民主制の国民主権国家に於いて国民次第である。具体例は、アメリカ、日本。
クルザード……ポルトガルの通貨単位
経常収支……国際収支の内、経常取引で生じる受け払いの関係を示す勘定の収支。貿易収支・貿易外収支・移転収支からなる。
外貨準備……中公銀行、或いは中央政府など、金融当局が保有する外貨
変動為替相場制……為替を外貨の需要の供給の関係に任せて自由に決める制度
コスト・プッシュ・インフレーション……悪性インフレとも言う。インフレではあるが、国民経済に悪い影響を齎す状態。製品を作る際の費用が増加して、生産費用の増大を賄う為、物価は上昇するものの、国民の所得が増えていないので、庶民は物価の上昇に苦しめられる。
プライマリーバランス黒字化……PB黒字化。税収・税外収入と国債費(国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳出と収支を黒字にする事。歳出を切り詰めて、税収を増やす事。非営利団体の政府を黒字にする為、民間や海外の赤字を増やす事。特に意味もなく国民を貧乏にする事。
Motherfu**e……母子相姦を表す卑猥な俗語。鎌倉期に「
他にも「名主」を「税務署の職員」など、現代人にも分かりやすいように、当時の言葉を現代風に訳している。
※参考資料
『Money in the modern economy: an introduction』
https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/quarterly-bulletin/2014/money-in-the-modern-economy-an-introduction.pdf?la=en&hash=E43CDFDBB5A23D672F4D09B13DF135E6715EEDAC
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