day6
27ーうなぎー
―2020年11月7日8:16― 桜奈の死まで35時間36分
昨日よりも強い頭痛がありながらもカーテンの隙間から漏れいずる光を頼りに体を起こして目を開ける。隣の桜奈を見れば静かに体をうつぶせにしてフニャンとした寝顔を作っている。こうしてまじまじと見ると体のラインが美しく、男としての理性を失いそうだ。
「……あと二日か」
前回の白の書室で僕の体にある靄が残りわずかになっていたことなどで直感的に今回のリープが最後であるような気がしていた。
「そうだね。あと二日だね」
「ごめん、起こしちゃったね」
左手で目をこすって右手は僕の腕をつかんでいる。昨日散々触れた絹のような柔肌だがシラフ(別に昨日飲酒していません)だととても背徳感があり鼓動が波打つ。
自分の感情がわからないときは今までにも何回かあったが今回は明確な感情があるのにそれが正しい感情なのかがわからない。なのでとりあえず僕は目を細めて「着替えよっか」と小さく言った。
着替えている最中に聞こえる衣擦れ音が僕を高揚させなかったのは成長といえるのだろうか。
今日の目的地である東京に向かうこと約一時間。視界にゆっくりと段々と大きく入ってくるのは提灯。それも雷門と名前入りの赤提灯。僕らが来たのは浅草。漂う空気はすっぱみを帯びていて古さを感じさせる。
近くにバイクを止めていつも通り写真を撮ると本堂に向かった。今はその通路にある浅草寺表参道、通称仲見世通りを歩いている。
「これ美味しそう!一緒に食べようよ!」
今朝は朝食をとるのを忘れていたため仕方ないといえば仕方ないが僕は花より団子状態だ。そんな僕が指を指したのは鰻おにぎり販売店。
桜奈は魚介系が苦手というわけではないのでもちろん「いいよ」と許可をとれた。
「すいません、鰻おにぎりを一つください」
「はいよ」
手渡されたのは浅草うなぎと印刷してあるシャカシャカとした紙に包み込まれたおにぎり。中を開けてみれば男の僕の手ほどの大きさをしているおにぎりとそのおにぎりよりも大きなうなぎが米の上に乗っている。米にも鰻にもタレが塗られていて光沢のある艶やかなおにぎり食欲をわかせる。
「すいません、もう一枚この紙の袋をもらえませんか?」
「……はいよ」
お店の店主さんは何を言っているんだこの小僧はという顔をして若干すごんでいたがすぐに僕に要求のものを渡してくれた。隣に桜奈が僕の服を引っ張って立っているのでこのおにぎりを分けることをなんとなく察してくれたのだろう。
「なんで一個しか買わなかったの?」
「他にも別の店で色んなものを食べたいし桜奈と分けて食べたかったからね」
僕はそう言いながらおにぎりと鰻を半分に分けてもう一枚の紙の袋に移した。
「はいどうぞ。うなぎはね、【縁】をつなぐっていう特徴を持つ魚なんだ。だからこうやって分けて、お互いに出会えた縁を忘れないようにしようかな……なんてね」
寒いせいかマフラーをしている桜奈が食べるために口を見せると頬は赤く、食べている動作はいつもと変わってちびちびとだった。
フッと息を漏らせばきれいな瞳をこちらに向けて顔を見せてきた。だからなんとなく僕は桜奈に抱き着いておいた。
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