day5
26ー5日目ー
―2020年11月6日7:27― 桜奈の死まで60時間25分
重い瞼をしっとりと開けてみれば視界に映ったのはにんまり顔の桜奈だ。
「おはよう♪」
おそらく僕よりも早く起きれたことがよっぽど嬉しいのだろう。それにしても黒板を爪でひっかいた時に出る音を聞いたときの様に頭が痛い。さっきから後頭部を手で押さえているのもそのためだ。
「おはよう。なんで朝からそんなに元気なんだよ……」
無邪気な顔を朝からしている桜奈はもうすでに着替えが終わっているみたいだ。
「ねね、散歩しよ!」
「……うん」
ちょっとだけ悩んだがキラキラとした桜奈の目に僕は勝つことができなかった。なので宿泊しているホテルの周辺をぶらりと歩くことにする。
僕は十分で準備をし、オートロックで閉まる部屋のキーカードを持っていることを確認して部屋を出る。
「おまたせ。行こっか」
一階まで下りてホテルを出たところで事件は起きる。全くもって予想外なことだ。
「あ!」
相手と僕の男同士の声の一致に指を指しあう行動の一致。結構大きめの声だったため周辺にいる人からの視線を感じた。
男二人の声は重なって共鳴した。そのあとすぐに桜奈が声で追う。
「百葉ちゃん!」
「え!?桜奈ちゃん!?何でいるの?」
影二らが会ったのは同じ学校の髪の毛にワックスをつけている海ノ上狛太とポニーテールにして髪をまとめている栗河百葉。
「
「月曜日から学校や住んでいる影ちゃんが言えたことじゃないでしょ」
ド正論な意見のため影二は顔を渋らせる。
「……それはそれ、これはこれ」
「逃げんな」
狛太はチョップで影二の頭をどつく。影二は何かを理解したようで鼻で笑って落ち着いた顔をしていた。
「なぁ、影ちゃんたちが時間があるならだけども立って話しているのもあれだからどっかの店入らね?」
影二は一瞬顔を桜奈に向けてすぐに「オッケー」と返事をした。出たばかりのホテル内に引き返して影二らは荷物をまとめた。狛太らが寒い中外で待つこと約10分、いくらかの荷物を抱えた二人は出てきた。
「ごめんお待たせ。近くにスタバがあるからそこに行こっか」
バイクを押して歩く影二と桜奈の後ろでは残り二人が優しく手を重ねあっていた。
店内はほのかに香るヒノキの匂いと苦みの中にある甘さが絡むコーヒーの匂いが融合して広がっていた。
―2020年11月6日16:34― 桜奈の死まで51時間18分
僕らは話し込んでしまい二人と話しているだけで一日が溶けていた。
情報量が多すぎてもうお腹いっぱいだ。
今は二人が店を出て行って僕と桜奈だけがテーブルについている。
「影くん、わかりやすく疲れてるね。顔にもういい!って書いてあるよ」
「まじか。恥ずかしいな」
僕の顔は疲れているらしいが桜奈の顔には疲れたというよりつまらないという顔をしている。その証拠に僕の両頬をつねってぷにぷにとスライムでもいじるかのように遊んでいる。
「この頬つねりって普通男が女にやるんじゃないの?」
「いいの♪影くんのほっぺは柔らかいから」
そういう問題じゃないと言いたいが言ったらこの気持ちの良いつまみも終わりそうなのでやめておく。
「おうあうおくのいあいであおおっえあいああおろおろああいにいおうお(今日は不測の事態で宿とってないからそろそろ探しに行こうよ)」
「そうだね。そろそろ出よっか」
僕らの11月6日という日は4人の思い出となったことは良かったのかもしれない……。
―2020年11月6日21:13― 桜奈の死まで46時間39分
影二らは運のよいことに一つ目の宿でまだ空き部屋があり、そこの旅館で泊まることに決まった。もうそれぞれの布団を敷いてその上に各々自由な態勢で座っている。
「桜奈、ごめんね。今日は二人で過ごす時間があまりとれなかったね。まさか
桜奈は影二が起きた直後から今日の宿に入るまでずっと別の人に自分のものがとられていたため拗ねていた。影二の方向に体は向いているが顔はそっぽを向いている。
「……影くんて私に一切手を出してこないよね」
「え?出してほしいの?」
影二は笑いながら言う。忘れていたが何度桜奈との時間を過ごそうと影二は
「……そういうことじゃない。」
何かを感じ取ったため影二は顔を赤くしながらも暗くした。
彼はそのまま体を流して桜奈に抱き着く。桜奈を逃がさないといった包み込むホールドだが振りほどこうと思えば簡単に解ける。
近い唇をくっつけてからはゆっくりだけども早かった。
この夜、ゆっくりとゆっくりと溶け初めの雪が春を知るように影二と桜奈は互いに互いの初めてを知って長く短い夜をすごした―…。
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