25ー弓の音ー
―2020年11月5日22:21― 桜奈の死まで67時間31分
夕食を大手ファミリーレストランで済ませて近くにあったビジネスホテルの二人用の部屋に影二達はいた。ビジネスホテルということでそこまで大きな部屋ではなく、ベッド二つで手狭になるほどの大きさだ。そんな部屋の中央にあるそれぞれのベッドの上で、影二は右足を上に胡坐をかいて桜奈は外側に「く」の字を作る女の子座りをしてゆったりとだべっていた。
「……桜奈。」
「どうしたの?そんなに改まって」
「桜奈はさ、僕のどこが嫌い?」
桜奈は作ったことのない見せたことのない顔をしている。その発言をした影二はというと手を口に当てて目を見開きながら伏せていた。
「ん~、特にないけど…しいて言うなら一人でため込みすぎなところかな。あ、あと平気な顔してカワイイとかいうところかな」
「そっか、じゃあ好きなところは?」
「影くんの好きなところか……。
好きなものなら、どこまでも誰にでも愛を無限大に注げるところかな。他には……ってちょっと話してるんだから寝ないでよ!」
影二は桜奈が自分の好きなところを語り始めて目をつぶって考え始めたあたりで静かにベッドにぬるっと入り込んで掛け布団を耳元あたりまで持っていって桜奈にそっぽを向くよう眠っていた。
ひょっとこの様に口をつぐませて影二を揺らすも一向に起きる気配はなかった。連日の疲れの余波とでもいえるだろう。桜奈もほどなくして普段の入眠時間よりも早い時間に影二のほうを向いて眠りについた。
影二の先っぽだけ出ている耳は室内が冷えているせいなのか真っ赤に色づいていた。もしかしたら街並みに合わせて紅葉していたのかもしれない。
―黄金の世界―
昨夜の夢でも見たので五回目の来訪。別に来たくて来ているわけじゃないのでどうでもいいという感情が先行するが似たような夢を何回も見れば気になってくる。特に今回はいつもと状況が見るからに……いや、聞くからに違うから気になっている。
パスッ、パスッ
矢が的に刺さる音だ。僕が射た時の音より遥かに軽い音。音源の方向を確認すればそこは水面の下。つまり水中だ。
音の方向に視線を落とせばそこにいたのは中学一年生のころの初心者時代の僕。それは
ただひたすらに矢を放っているが今まではただ放浪することしかやることがなかったので退屈ということはない。見れば見るほど至らない点や改善点が思いつき、それに飽き足らずこの男の弓への情のなさが伝わってくる。
不完全な記憶の投影とでも言うべきだろうか。この後誰かに何かをされたことくらいしか覚えてない。
「まだだね。まだそのときじゃない。」
数メートル後ろのほうから声が聞こえたと思って後ろを振り向くも誰もいない。まぁそれはいつも通りだから良いのだが、その声の主は白の書室で聞いた声に酷似していた。
「もう起きるみたいだね。」
上から目線にプラスして話し方の間合いが鼻に着くため僕はふつふつとお腹のあたりが熱くなる。
「あと少しでわかるだろうよ」
この言葉を最後に僕は目を覚ました。
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