24ーbungeeー
カラッとした寒さが影二の身を包む。
「うっわ、たっか~い!」
バンジーをするために二人は薄着になっていた。
ジャンプデッキは[G]の形で真下を見下ろしやすい状況になっている。眼下には浅瀬の皮が広がっていて所々に砂利が顔を出していた。
「ここから落ちるって考えるといやだね」
「影くんは臆病だね。足がすくんでるよ」
足がすくんでしまうのはおそらく影二の本能としての生への渇望……であろう。
こちらのやり取りを見ていたスタッフさんは影二の右肩に手を置き「うん!」と声を小さく発しながら、彼氏さん、いいんですか?彼女さんにかっこいいところ見せなくていいんですか?とでも言っている。
沼のような状況に身動きが取れずに影二は絵にかいたようなしかめっ面を作っていた。
何も言わずに右下のほうに視線を向けて、左手で何回も触れなれている小さな手をぎこちなく包むように握っていた。
「私と一緒にいてくれるんでしょ♪」
「あぁ、もちろんだよ」
「弱点だらけの影くんのことは私が一番よくわかってるから安心して」
桜奈は手をほどき今度は指同士を絡め合わせている。
「なんでそんなに驚いた時のミーアキャットみたいな顔をしてるの。
大丈夫。こうして手をつないでいれば死ぬときは一緒だよ」
「そうだね。桜奈、ありがとう」
厚い雲の間より抜けてくる光が強くなってきている。その光は二人のいくつもの肌を温めていた。
「不謹慎だけどなんかこれから死ぬみたいだね」
むっとした影二が桜奈の顔を正面から見るがすぐに笑う。
「あのー、お二人さん後ろも閊えてますのでもうよろしいですか?」
『はい。』
言葉とは裏腹にスタッフさんの顔は般若だった。
「ではしっかりと手を握っていてくださいね」
触れている指先から桜奈の熱が伝わってくる。
「3…2…1…バンジー!」
その声といっしょに僕らは身を乗り出した。
ふわりと空中に浮かぶ。と思ったのも束の間で一気に体が落ちていく。似たような感覚は【白の書室】で嫌というほど経験していた。でも今は違うと確信できる。桜奈とロープが僕とつながっている。それだけかもしれないがそれで十分だった。
落ちきると空中にトランポリンができたように弾む。トランポリンに沈み込んでその後すぐ上に引っ張られると僕らは宙に浮いた。比喩でもなんでもなく宙に浮いた。
バサッ
「浮いた!浮いたよ!」
このように切れない命綱に引っ張られて桜奈もご満悦。この至近距離に桜奈がいるのに太陽の光が集中して夜空に浮かぶ星のように輝いていた。
「前に桜奈の家で一緒にプログレスで遊んだ無重力空間みたいだね」
「それって過去に戻ったときじゃない?」
忘れていたが僕は現在で行ったことはなかった。
「そっか、タイムリープする前は行ったことなかったね」
「じゃあこれで私も影くんと同じ気持ちになったってことだね♪」
ビヨンビヨンと伸び縮みする紐に遊ばれながら僕らは見つめあって笑っていた。
バンジーを終えた後はほどほどの疲労感の蓄積を感じていた。帰り道に寄ってきた野良のかぎしっぽをした猫は僕らに抱かれるなりニィャと鳴いてその尻尾をぶんぶんと振って甘えてきたので余計に疲れたことは言うまでもない。
そんなことがありつつも僕らは明るく本日の宿に向かった。
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