18ーdisasterー
さっきまで調子の良かった外の天気は
「折角だから二人も考えてみてよ」
桜奈にはタイムリープのことや凪さんの話を聞いたことなどは話していなかったので彼女は眉を潜めているもつかめない表情をしている。
滑らかに落ちていく声は何回も聞いた凪恒二の声とは思えずに、僕は凪さんが話している最中に数回顔を確認した。
「やだな~。私は影くんが死んじゃうところなんて考えたくないな~」
声は明るいが薄い顔をした桜奈は足を崩して僕の方に寄りかかってくる。それにつられて反射的に頭をなでてしまう。
「そりゃあ僕も考えたくないよ」
「二人は仲がいいんだね。一応僕がいることも忘れないでね。まぁそれはいいとしても心理テストに答えてね」
さすがは声優といったところで声の変わりが早く、色のある声からトゲツンとしているのに低い声に。
「すいません、すいません。」
誤ってるのにそんな恰好のままなんだね、という言葉は桜奈の耳に入らないようだ。
「わかってますよ。そうですね僕は……」
ガラゴロガラゴロゴロ
僕らのいる空間が光ったのと同時にそこにはフラッシュをたかれた一枚の写真を作った。
「影くん!ピカッて雷鳴ったよ!雷!」
僕はさっきと何一つ変わらず頭をなで続けて外に目をやっていた。
「そうだね。凪さんはどうしたんですか?」
「あぁ、いや。別に」
声を裏返して話す凪さんを桜奈は口に手を当てて小さく笑っている。
「じゃあな~んで耳に手を当ててるんすか?」
「ぁ……ぇ……ぅ……」
凪さんの声は口の中で喋っていて何を言っているかわからない。その後ろでなびいている青緑色の木草の嘆きを僕はなぜだか肌で感じていた。
ゴゴゴゴゴゴゴロロロ
「あ、あぁ。俺、部屋に彼女待たせてるから帰るわ」
「もっとゆっくりしていっていいんですよ」
後ずさりしながら立つ凪さんに向かって僕よりも先に桜奈が声をかけた。桜奈がいやらしい目をすることに僕はおいおいと思わざるをえなかった。
こうして僕にとっての予想外の中の嵐は去っていった。僕らは時間にしてトータル三時間ほど話していた。
「ぅはあ……」
兄の友人が意外と沢山一方的に喋る人だったとは知らなかった。そんなことで隠せない疲れを出して桜奈に寄りかかっていた。
「お疲れ様。テレビで見ている時よりも元気な人だったね」
「そうだね」
「桜奈は温泉入ってきなよ。僕は疲れたから少し休んでるよ」
ぷくっとほほを膨らませる桜奈は天使だからこのままにしておきたいがそろそろ叩かれそうだ。
「わかったよ。僕も行く」
「そんなに嫌なら一緒に部屋の温泉入ろうよ」
桜奈は右手に女用、左手に男用の水着を持ってそう提案してくる。僕がボソッとどこで見つけてきたんだよと言えば脱衣所にあったと答えている。どうやらそれぞれ二着ずつ用意してあったみたいだ。正直言ってとてつもなくうれしいがその奥では女の子でそれはいいのか?と思う僕がいた。
「桜奈が嫌じゃなければそうしようか」
桜奈は「じゃあ」と言って二人分の浴衣を脱衣所に持って行った。
—2020年11月4日14:56— 桜奈の死まで98時間54分
部屋に設置されている温泉は広く、一度に4人ほど入れそうな大きさだ。生憎の天気でそこから見える景色は決っしていいものではない。狭い室内に二人きりの時間であった。
「影くんのぼせてない?顔、赤いよ?」
「あぁ少し温泉が熱くてね」
影二の顔は全体的に心から染まっている深い赤で色づいている。桜奈は対照的に表面的な赤さである。二人は部屋の温泉ということで体を洗う前に先に湯船に入っていた。
「なんか、やっとゆっくり話せるね。白馬に行ってジャンプ台を見て、次の日は新潟の海。それで今日は凪恒二さんに会ったね」
「凪さんに会ったのは予想不確定事象だったけどね」
「そうだ、ゆっくりできるついでに影くんの背中流すよ!」
パッシャアー
「じゃあ頼もうかな。もちろん桜奈の背中も洗うよ」
パッシャアー
二人は立ち上がる。二人ともが運動部ということもあり見事な体つきだ。
15分で水が循環して新しいお湯が張られるので二人が体を洗ってまた温泉に入るときにはきれいな湯になっているだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます