day3

15ー朝日ー

   —2020年11月4日5:45— 桜奈の死まで108時間7分


  テレレレン テレレレン テレレレン

 早朝。薄暗い一室で黒色のカバーを付けたスマホが鳴り出す。それに手を伸ばしたのはぼっさぼさのクワガタ髪の男。スマホのアラームを切ると画面が暗く戻る。

 普段の癖であろう、影二はスマホを手にすると電源ボタンを一回押して時間を確認する。

 時刻は5:45。影二は顔を少々引きつらせてから隣で寝ている桜奈をごそりごそりと大きく揺らして起こそうとしていた。それもそのはずで、このアラームは設定しておいた5回分の最後のアラームであったためだ。

「ん~。今何時~?」

「5時45分だよ。」

 バッ!

 音とともに布団をめくって上半身を起こす桜奈。ぎょろっとした目で影二の眼に確認するとぎょろっとした目で返される。

 状況が一瞬で呑み込めたようで二人は髪を直してからすぐに上着を羽織って音を立てずに宿の外に出る。

「おはよう」

「おはようございます」

 二人は揃って甚平姿の女将さんに挨拶をする。

 外に出ると黒とオレンジ色の中間の色で広がる海の目の前にその女将さんは寒そうに腕を前で組みながら立っていた。海の前には他にも7組のお客さんが今か今かと落ち着きがなく日の出を待っていた。

 影二らの目の前から吹く風は寒くて海に小さな波がいくつかできており、日が出ていない今ですら幻想的という言葉がよく似合う。


 時刻は6:11。僕らは海の前にいた。

 砂浜に出て、ほどなく大きな太陽が顔を出す。赤く光る、僕らを照らす照明はいくつもの線で刺してくる。海に反射した一筋の光はオレンジ色に僕らのところまで伸び、遠くに見えるあの太陽までの橋の様に見える。その上、段々と弓状に波を打っている白い雲は流れ込んだ光を包んで薄オレンジ色に変化していた。

 つまり僕は息をのんでこの景色を見ていた。いや、見惚れていたというほうが近いかもしれない。

 吐く白い息もこの画にスモークをかけて美しく仕上げている。それに周りの環境音も相まって絵は引き立てられていた。

 意外とこういう景色は心を奪われるものであって、数分ただじっと僕らはこの経験を味わっていた。

  パシャパシャ、パシャッ

 僕が静かにみている中、桜奈は写真に収めることに注力していた。一通り景色を撮ると今度は二人のツーショットで写真に花を添えていた。

 桜奈主導で写真を撮る中、僕は少々のむなしさを感じてしまった——

「もっと笑って!」

 寝起きだというのにどこまでも明るい声で話しかけられる。目を細めて[にぃっ]と笑って思い出に写っている。

 ——そんな彼女とは裏腹に、僕はこの写真を撮ったとしてもこれから先の長い未来で桜奈は見ることができないということを[パシャリ]という音自体が告げているように感じてしまっていた……。


 小さな太陽。降り注ぐ朝日は影二を一片の残りすらなく照らしていた。

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