14ー黄金のー
―2020年11月3日22:41― 桜奈の死まで115時間11分
僕らは海鮮バイキングでサザエやら牡蠣などの貝類をはじめ、イカやタコにイナダなどの数多くの刺身を堪能して部屋に戻ってきた。海なし県の民である長野県民にとってはとても幸せな時間であった。部屋に着くなり、僕らは特にやることもないので昨晩の様にトランプを出して遊んでいた。静かな海辺の宿の一室に摩擦で紙が擦れる音とゆっくりとした僕らの声が漂う。
やっているゲームはスピード。感情を表に出しやすい桜奈にはこれが一番やりやすい。桜奈が陸上部であるのもこのゲームをする理由の一つ。
「昨日もトランプしているときに思ったけどさ、なんか修学旅行みたいだね」
ゲームをやりながら話すことはこんな他愛もないことだがそれが集中力の妨げになり、愛おしい時間へと変化させる。だけれども僕だって勝ちたいのに、話している+反射神経では到底追いつかないため、もちろん心理戦を仕掛ける。
「今日は助けてくれてありがとうね。そういえばさっきキスしたところかな?キスマークが残ってるよ」
「!?」
ウサギが驚くと耳が立つのと同じように桜奈は体をびくっと振るわせて耳の先が赤くなるのと同時にピンと尖る。あまりにもカワイイその行動は僕の胸を刺激して、思わず目を伏せてしまう。これではどちらが仕掛けたか分かったものではないな。
「明日の朝も早いしもう寝よっか」
もうすでに2時間近くスピードをやっていたこともあり消耗している。いや、今の一言が一番消費したかもしれないが……。
「そうだね」
高校生ということもあってまだやろうと思えばやれるがさすがに疲れすぎたためもう寝ることとする。スピードの名に恥じぬ戦いをしていたので旅疲れに圧し掛かってより疲れていた。それぞれの布団に入ると僕は数秒もしないうちに夢の中n……。
ドッック、ドック
僕は眠って、ここは夢。
実はここに来るのは三度目だ。起きると思い出せなくなる変な世界。変な世界つながりだと【白の書室】もおかしな場所だがあそこは起きても覚えている。
――ここは黄金の空が広がる世界。
僕は海かどうはわからないが大量の水の上に立っている。少し歩けばそこに波はできるし、止まれば波の発生もなくなるので水面に触れていないわけじゃない。靴は水に沈まず、靴底に撥水加工でもされているんじゃないかと思うほど水をはじく。
時折吹く風は潮風というよりも草原で吹くような甘く柔らかい風。水面が光を反射して普段見えないような物さえ視認できそうなくらい眩しい。
ここは視覚を含め、五感すべてが鋭敏になっている気がする。特に際立っているのが聴力であり、僕の心音がライブ会場の様に下から突き上げるように響いて聞こえる。音的には世界を揺らすのではないかと思うほど低く重い心音がだ。
「またここか……。」
夢とわかってるが状況以外は現実と大差ない。
ここに初めてきたのは今回のタイムリープをして旅行した一日目の夜。二回目はさっき海で気絶した時。三回目が今だ。
特に何かをするわけではなく、それに何かをできる場所ではないため過去二回も周辺を彷徨っていた。
この海の底は綺羅光していて深さを知ることはできない。だが水面に映る黄金の魚はそのあるだけ海を伸び伸びと生きているように感じた。
ドッック、ドック
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