13ー鼓動ー
髪をかき上げると現れたのは小さな耳。
僕は気づいたら右手左手と順々に抱きしめていて、その状態で「絶対に手は離さないよ」と口に出すとそっと首を横にして喉にキスをした。
僕が顔を遠ざけると桜奈はすぐに落ち着き払ってさっき話そうとしていたことを話し始める。
「影くん。さっき影くんが
「金色の…空の下か……」
「それが見えた時にね、影くんの心臓の音が私の中に広がっていったんだ。ドクン、ドクンと私を揺らして響いたんだけど、その音はすごく遠い気がしたんだよ。ほんとだよ?」
僕は訝しんだ顔をしていたのだろう。
「最初は影くんが死んじゃったんじゃないかと思ったんだよ。でもねその音を聞いたときに、あぁ影くんは生きてるんだ、って実感が内からあふれ出したんだよ。こんなに嬉しいことは今までなかったよ」
涙目になりながら僕を見つめて話している。あまりに目をうるうるとさせるもんだから、僕は軽く頭をなでた。
「影くん、絶対に私から離れちゃだめだからね」
「当たり前だよ」
髪に触れる音に紛れて歯切れが悪そうに「ごめん」と言う弾力のある声が聞こえた気がした。
影二は起きた時に女将さんから軽くいきさつや倒れた後のことを聞いていたが一応桜奈にも話を伺っていた。
ぐぅ~
話すこと15分、二人は一息つくと可愛らしく二人ともがおなかを鳴らし、互いに今日あまり笑えなかった分を清算するように笑っていた。
「お腹すいたね。桜奈に言ってなかったけど夕飯は海鮮のバイキング形式で色んな魚介類があるらしいよ。六時から九時の間でバルコニーのロースター付きのテーブルでやるって女将さんが言ってた」
「ロースターテーブル?」
「焼肉屋の、あの机の上で焼くことのできるテーブルだよ」
時間も時間であったので二人は部屋を後にして夕食会場に向かう。
「あら~、似合ってるじゃない!それもおそろいで!」
声をかけたのは牡蠣の殻を割っている女将さん。桜奈は今まで気づいてなかったのかと言わんばかりに唇を引いてほほを上げた。
「それにしてもあんたはもう大丈夫なのかい?」
「そうだでぇ、坊主もうよかぁ?」
「ありがとうございます。おかげさまで今はお腹がすいてます」
影二はさわやかな笑顔でマダムとイケ旦那にすぐさま感謝を伝えている。その横では何故か女の子が泣いていた。
「ちょ、桜奈、どうした?」
いや、泣いていたというよりも涙を浮かべていたというほうが正しい。
「影くん、生きていたんだね?良かったよ」
「おいおい、俺を殺すなよ!」
少し強めに影二から発せられたツッコみはその場にいた他のお客さんにも聞こえていたようで、会場全体は笑いに包まれていた。
笑われる空気は暖かく、夜の冷え込む寒さに抗うことを常々行っているようであった。
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