day2

7ー照る朝ー

  ―2020年11月3日6:52― 桜奈の死まで120時間00分


  ジュウゥワ―――

 目玉焼きの焼ける音と香ばしいベーコンの匂いが充満して部屋を包み込み、眠っている死体すらも起きだしてくるような心地よい空間へと朝から仕上がっている。僕はキッチンで朝食を二人前作っていた。

「おはよ~」

 起き上がってきたのは死体ではなく、口元をむにゃむにゃと眠そうにしている桜奈であった。髪の毛のぼさぼさ具合や寝ぼけ方が猫みたいでカワイイと言うと怒られそうなので第一声でそれを言うのはやめておく。

「おはよう。よく眠れたみたいだね」

「うん。ごめんね、ご飯作るの手伝う。起こしてくれたら手伝ったのに。」

 僕が朝食を作っていることにわずかに憤慨しているようだが目をこすりながら話しているので説得力がいまいちだ。

「いやいや大丈夫だよ、これくらい一人でやれるからさ。それに、木道よさそうな寝顔も見れたしね」

 僕はスマホを右手に、今朝撮った写真を見せている。わかりやすく桜奈の耳が赤く染まっていく。

「さぁ、ご飯できたし食べようか。座って、座って」

「ちょっと待って、ちょっと待ってよ。昨日の夜のこと気づいてたでしょ」

 顔がさっきよりもみるみると赤くなっていく。正直言って、見ていてとても面白い。

「昨日の夜のこと?何かあった?」

「い、いやなんでもない…」

 桜奈の言葉は歯切れが悪い。

「ささ、影くんが作ってくれた朝ごはん冷めちゃうから早く食べよ!」

 なにかに追われるように行動を改めた桜奈にさっきまでとは立場が逆転して僕は流されるままに朝食をとった。

 ちなみに用意したのは昨日お土産屋さんとスーパーで買ったベーコンと目玉焼き、そして食パンだ。自分でもうまくできたと思えるほどに美しい円が二つ、ぞれぞれのだ真ん中にはまん丸のお月様が一つずつ浮かんでいる。


 僕らは部屋中央にある大きめの机で向かい合うように置かれている椅子二つずつに交互になるよう腰かけた。

「いただきます」

 僕がそう言うと桜奈も追うように「いただきます」と言った。

「そういえば前から思ってたけど影くんは偉いよね。私だったらご飯食べるときにはいただきますなんて言わないよ」

 話しながら器用にフォークで口に食べ物を運んでいる。

「ん!!おいしいよ、この目玉焼き!」

 口に入った瞬間に顔を上げて瞳孔が開いたのがよくわかる。本当に僕の彼女はこの女の子はと思わせるほど掌の返しが早い。そんな彼女を見ていれば夢で見たことや今考えていることが馬鹿馬鹿しく感じる。思わずほほがあ緩むほどに。

「そうだね、おいしいね!」

 二日目も良い日になりそうだと朗らかな朝日が降り注いで僕に囁いている。

 窓を通して見える場所にはニゲラが数多咲いていてとても美しく、秋にしては暖かい朝であった。

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