6ー1日目の終わりー
[August]は二人が付き合い始めた頃に映画公開日に見に行った映画だ。
「あらすじは、そう、主人公が何度もヒロインが救うといういたってシンプルな作品だよ。普通の日常を過ごしていた主人公だけど突然死んでしまうやつ。死んだのは8日16日で何度もこの日を繰り返して救おうともがく作品。24:00に時がリセットされて毎日が8月16日のやつ。思い出した?」
何度もヒロインが悲惨な最期を迎えて演出が生々しいということで、公開一週間で打ち切りという悪名で日本映画史に残ることとなった作品だ。上映中から上映後の館内で嘔吐をするものが後を絶えなかったというのも一つの理由だろう。
「ストーリーはなんとなく思い出してきた。最後はどうなるんだっけ?」
影二にさっきまでのふやけた顔が今はなく、一点を見つめる表情をしている。桜奈はわずかに軽蔑の表情を示し、ため息をつく。
「最後は24:00までふたりで残るけども、日付が変わった瞬間に主人公は急に炎上して消し炭になっちゃった。その後にヒロインがその炭を手に取ってニカッと笑い「ありがとう」って言ったシーンは恐怖そのものだって二人で話したじゃん。私は好きだった話だけど影くんは凄く毛嫌いしていたよ」
あらすじを聞いて影二の顔は薄暗くなっている。
「ありがとう、思い出したよ。今思い返しても嫌な話だね。聞いたのは僕だけど聞かなければ良かったよ」
「そういうこと言わないの!」
「ごめん、ごめん。もう温泉を出ないかな?」
「ちょうど私も同じこと考えてた」
二人は見つめあって笑っていた。夕陽に照らされた二人の顔は苦しみや悲しみなんて知らないかのようにキラキラとしていた。
—2020年11月2日23:36— 桜奈の死まで127時間16分
明日の朝食を買い、夕食に近くの店でそばを食べ、備え付けてあった寝巻に着替えて僕らは明日の行動について話し合っていた。
「さっき言ったように新潟行こうと思うけどいいかな?」
「オッケー!じゃあ明日の朝も早いしもう寝よっか」
「そうだね。おやすみ」
「おやすみ」
それぞれのシングルベッドで横になって静かになった数分後、影二は眠りに落ちて桜奈はそれを狙いスマホのカメラ機能で写真を撮っていた。ご丁寧にシャッター音はしっかりと切ってある。
「可愛い♪これが私の彼氏とか幸せ~♪」
にやけながら眠っている男の顔をみだらな顔で写真を撮っている女。月明りだけが差し込む部屋で二人きり。つまり自由なのだ。
顔の下側からの角度、右からの横顔、真上からの画など多種多様な写真、計40枚を既に撮っていた。
「桜奈~ごめんな~大好き~」
急に鳴る男の声。影二は掛け布団を一か所に巻き上げて寝言を言っていた。
これにより捗っていた写真撮影の手が止まる。暗いせいなのか桜奈の顔は青白くなっている。手を止めた桜奈はひっそりと足音一つ立てずに自分のベッドに帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます