4ー白馬街ー

  —2020年11月8日15:16— 桜奈の死まで136時間36分


 僕らはスマホで調べた近くにあるいい感じのコテージに向かっていた。当日受付可能でまだ空いているコテージがあり、二人で14000円と安かったのでそこにした。

 受付を済ませると大きめの木のキーホルダー付きの鍵と寝巻を手渡されたので僕らは少ないが荷物を置くために指定された宿舎に向かった。

「すげーな。僕はログハウス初めてだよ」

 ログハウスを背に写真を撮り、古びた木の扉を開けて中に入っていった。

 ガチャン

 二人が目にしたのは1LDKと中二階のある大きい部屋。綺麗に清掃も行き届いており心地よい。

「写真で見てたのよりも広いよ!窓も大きいから照明つけなくても明るいね!中二階にはトランプとかできそうだよ!」

「そうだね!こっちは寝室だ!二人部屋だからやっぱりベッドも二つあるよ」

「影くん…えっち…」

 頬を赤くして目線を下にして小さく縮こまっている。

「あぁぁあぁ、ごめん。そ、そうだ、荷物置いたら散歩しよう!ほら、さっき受付でもらったパンフレットに色々と書いてあるからさ」

「う、うん。」

 しおらしく頷く桜奈に心奪われない男はいないだろうと思わせるほど可愛らしい。

 数分後、桜奈を慰めながら近くの白馬村の中心街に散歩しに出かけて行った。


 —白馬村中心街—

[村]と言っても観光が栄えている街だけあって中心街は盛り上がっている。人の往来も地元上田に比べると盛んで驚いてしまう。

「思ってる以上に栄えているね!」

 白馬村には失礼だが桜奈も同じことを思っていたことにクスリと笑う。さっきまでのしおらしさはと思わせるほどいつもの無邪気な桜奈に戻って何よりだ。

「そうだね。桜奈は行きたい店とかある?」

「ん~、お土産屋さんかな。さっき影くんが言ってた通りなら明日の朝すぐに別のところ行くもんね」

「オッケー。じゃあすぐそこの駅に行こうか」

 歩くこと3分。駅に到着するなりある看板が目に飛び込む。[♨足湯]と書かれている看板だ。その時、僕の中の欲望は抑えられなかった。

「温泉……。えーっと、足湯に入りたい」

 ほっそりと声に出ていた。今回の旅は桜奈のやりたいことをやらせると決めていたのに…

「ここに来てやっと本心を晒してくれたね。嬉しいよ」

 気負いすぎていたみたいだ。本当にこの桜奈ひとは……。

「じゃあ、足湯に入っていい?」

「いい?じゃなくてでしょ」

 何とも情けないことだ。何十時間も一緒に過ごしてきたのにこんなことにも気づけなかったなんて、やっぱり強制的にでも旅行に誘ったのは正解だったな。

 影二の足音は軽くなり、看板の地点へと歩みを進めていた。

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