3ー美景ー

  ガタンッ!

 その音と共にゴンドラは水平となり、視界は一気に暗くなる。彼らは数分のフライトを終えて坂の頂上に着いたようだ。

「うはぁ……。」

 屋根の下からジャンプ台の発射地点に出ると二人は同じ感嘆の息を吐いた。

 頂上から見る景色は圧巻の一言に尽きる。センターラインに延びる緑色のジャンプ台。左右に広がる森林地帯。奥側に散らばる様々な色の建物。雲一つない青空が画にコントラストを生んでいる。濃淡様々なこの町を一望できることに感謝するほど美しい。

「なんか、世界に吸い込まれそうだね」

「そうだね。僕はこんなに美しい景色を見たのは初めてだよ」

 彼らの自然とこぼれる笑みには【高校生】というブランドに頼らない高潔さが籠っている。

「私は来週死んじゃうんだよね。残念だな~、生きていたらまた来たかったな~。今度は結婚して、その次は家族を増やして、またその次は大好きな人と二人で。私は沢山の時間の共有者くんともっと過ごしたかったよ。それで、もっともっと好きになるんだ。」

 うそぶくような話し方であり、怒っているような話し方でもあった。

「でも、今日ここに来れてよかった。死ぬってわかってよかった。だって知らなかったらこの時間もまた来るだろうと思って蔑ろにしてた。この影くんと過ごせる時間を今までの時間以上に大切に思えるよ!」

 桜奈は[にぃっ]と満点の笑みを作っていた。

「そうだね。これから約一週間に時間は限られてるけど大切にしようね」

 影二も桜奈にハッキリと応えて改めて覚悟を決めた瞬間であった。

 周りのお客さんにも男女で来ている人が多く、彼らは写真を撮る代わりに撮ってもらうことをカップルで来ていた女性に頼んだ。

「はいはい、お兄さんたちもっとくっついて。それじゃあ入らないよ」

 二人は肩を寄せ合って指でハートを作り、スマホの縦画面に収まっている。

「いくよ~、ハイチーズ」

 パシャッ

「影くんともう一枚いいですか?」

「いいよー。」

 女性がそう言うと桜奈は影二の二の腕を抱く体制に切り替えた。

「二枚目いくよ~、ハイチーズ」

「ん…!!」

「Wow!大胆!」

 フラッシュが焚く瞬間に桜奈は頬にキスをした。その行動には撮っていた女性も驚きを隠せないようだった。桜奈の顔には「してやったり」「今朝の借りを返したり」と言った顔をわかりやすく作っていた。

 二枚の写真を撮ると彼らは人が増え続けるこの場にわずかに躊躇いながら去っていった。

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