4ー歩を進めるー

  —2020年11月2日7:52— タイムリープ20


「何ぼーっと立ってんだ!片付け手伝えよ」

「おっ。煌輝、俺学校休むわ。一週間休むから先生に伝えておいて。じゃ!」

「ちょっ、まっ、え~。行っちゃった」

 影二は過去に戻るとすぐさまリュックを背負って自転車に乗り学校を去っていった。自転車は渉宅に向かってではなく山城宅に向かっていた。その道の途中で二人は出会った。

「影くん、どうしたの?」

「桜奈、ついてきて!」

 影二は自転車をそこに乗り捨てて手を引っ張って走っていった。

「痛っ。痛いよ。どうしたの⁉」

  ……タッタッタットッフッ

 足を止めて唇同士をくっつける。フレンチなやつではなくディープなやつだ。

 影二からのキス。突然の行動と初めての行為に桜奈は目を白黒させている。無論影二も初めてなので頬を赤らめながら桜奈を感じている。

「うっっうっうううぅぅぅ……」

 大衆の面前である道路の真ん中で平日の朝から高校生男女はキスをしている。いたって平凡な町は今日も平和なようだ。


 僕は桜奈の首元から頭にかけて手をまわして覆いかぶさるようにキスをしている。正直に言って、はずい!桜奈は目を白黒させているが僕も相当動転している。黙ってついてきて欲しかっただけなのになぜ急にキスしたのかわからない。

  ドガシャン!

 車が電柱に衝突したみたいだ。運転している若そうな男は口を顎が外れるほど大きく開けて目を見開いてこちらを見ている。そんなべたな話があるかと思うほどだ。

 肩をつかみ少し距離を置く。桜奈は自分の髪を触りながら明らかにもじもじしている。

「桜奈!」

「は、はいっ!」

 あちこちに跳んでいた桜奈の視線が一声でこちらにくぎ付けとなる。

「今から父さんと会ってくれ。そして色々とそこで話す。だから何も聞かずに一緒に来てくれ」

 僕の声は上ずり、イントネーションもおかしかった。桜奈は「あ、え?」と同様の色を見せており、次に言った「わかった」には不安や懐疑がのっている気がした。

「桜奈、走れる?できれば走りたい。あ、でも無理はしないでね」

「走れるよ。そういえば影くんの家の方向じゃないよね。どこに向かっているの?」

「あー、それは会社だよ。父さんに連絡して会えるようにしてもらった」

 …………

 そこから父の会社に着くまで僕らが話すことはなかった。悲しいかな、僕は話しかける勇気が出なかった。

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