6ー暗転ー
―2020年11月8日19:46―
大好きな人と一緒にゲームをし、一緒にクッキーを作り、一緒に映画を見る。カップルとしてはこの上ない休日の午後を過ごした。
気がつけば時刻は19:47。
今、桜奈はトイレに行くと言って席を外している。そのためリビングで僕は一人スマホをいじって時間を潰している最中だ。
そこで突然、パッと電気が消える。
雨はまだ降り続いており、家の中にまで届く音が不安感を否応にも沸かせる。
迂闊だった。別に警戒してなかったわけではない。妙な胸騒ぎがする。
数えきれないほどの悪い想像が頭の中に浮かんでおりいてもたってもいられなく、立ち上がり桜奈を探す。とは言っても真っ暗闇で何も見えない。焦っていたのだろう、スマホのライト機能を使うのを忘れてしまうほどに。
時刻は19:48。
どこかから音が聞こえる。声に近い音。いや、声だ。
「ハッ…………………・ト………ー
ハッ……バ……デ…・ト………ー
ハッピーバースデイ・トゥーユー」
心臓に悪い。が、ひとまずは安心した。
暗闇の中から現れたのはケーキを手に持った桜奈だった。ロウソクに火を灯しているのでそのためにわざわざ電気を消したのだろう。
「杞憂であったか」と落ち着くが何故であろう、心に落ちている胸騒ぎは消えるわけでも、ましてや軽くなるわけでもなくどんどん奥底へと沈んでいっている。
「そんな冷や汗がでるくらい驚かせてごめんね。切るから一緒にケーキ食べよ」
そう言って電気をつけようと動いたとき、明らかに鍵を開ける音ではない「ガチャ、ガチャリ」と玄関の方向から物音がしたのを僕は聞き逃さなかった。
時刻は19:49。
「待って」
とっさに声が出る。僕の胸騒ぎセンサーはビンビンと警報を鳴らしている。
今度は一言前とは違い、小さな声で「こっちにいて。」と人差し指を口に当てながら伝え、それに応じて桜奈も物音一つ立てず近寄り、二人でかがむ。
ポパッ!
かがんだちょうどその時、電気がつく。
僕ら以外いないはずの家でいきなり電気がつくことがおかしいことから影二が考えている[誰かが入ってきたかもしれない]という憶測が確信へと変わっていた。
玄関の方からカッカッとかかとを床に打ち付ける音が聞こえる。音だけでわかる革靴の足音。つまり、家の中に入ってきた何者かは土足で上がり込んできている。
リビングに来るまでにいくつかの部屋を覗き人がいないか確認しているみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます