15ーやきとり 鳥仲良しー
時刻は19:51。
二人は裏道の居酒屋通りを僕の右側に桜奈がいるように歩いている。
雨が強さを増しているということもあり歩いている人は僕ら以外見当たらない。
「映画、二作とも面白かったね。でも疲れちゃったよ」
「ごめんね。でも、桜奈が絶対に好きな作品だって予測できてたから二作連続で見たんだよ」
「ありがとうね!これじゃあどっちの誕生日かわからなくなっちゃうよ」
「僕にとっては桜奈が幸せなことが一番のプレゼントだよ」
影二は本心で話しているが心のうちは「よし、この時間に交差点にいないことで死を回避!成功だ!」と喜び、心の中の僕は小躍りしている。
時刻は19:52。
「今日は本当に楽しかったよ。ありがとう。桜奈は
「そんなことないよ。私だって今日一日幸せだったよ。まだまだ先だけど、高校卒業してもこうして一緒がいいな」
「僕もだよ。これからもよろしく……」
ガシャクン
「く」の音を発した時に右を向くがそこにはいるはずの桜奈の姿はない。あるのは[やきとり 鳥仲良し]と行書体で書かれた看板。そして、傘と人間のスクラップだ。
『どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ……』
急に起きた事象に対し、ただ見ていることしかできない。指先一つ動かせない。傘は手から滑り落ちる。
雨がこれでもかと勢いを増し、背中に刺さる雨粒が痛い。
「…の……で…………ゃ、ゆ……ない」
僕は顔を引きつらせる。それだけだ。
時計の長針が一つ動き、時刻は19:53。
世界がうねりにうねり、倒れこむ。
―???―
目の前に…いや、周りにあるのは真っ白な世界。まるで雲の中に自分が存在しているように感じさせられる。
目以外のすべての体の部位が周りの靄のようなものに包まれ、指一本動かせない。いや、包まれていると言うより体が靄そのものになっている。つまり、目ん玉だけがぎょろぎょろと動いて体は空間と一体化している新種の生物みたいだ。
それなのに[落ちている]という感覚だけが体中に染み渡る。底がない。どこまでもどこまでも。
変な話だがどこかからか「…………かい?」「……えるかい?」「聞こえるかい?」と聞ける、聞こえるはずのない低めの優しい声が聞こえる。
上下左右を確認しようとあるのは真っ白の靄。それ以外は何一つない。
時間という概念すらこの空間に存在するのか甚だ疑問だが、体感で数刻が経った頃には彼の眼は疲れ切った鷹のそれであった。
そこから数分と経たない頃に彼に残る唯一の器官すら靄でおおわれる。同時にぴたりと落ちているという感覚がなくなった。
すぐに目を開けようとすればそこには芝生と的。彼の眼前には見慣れている五年間も暮らしていた実家の弓道場が映った。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます