12ー狛太ー

 サウナ室に入って六分経過。

 九十度のサウナ室に六分。彼はいい判断をしたのかもしれない。ちょうど気持ちいいころだ。一人水風呂に入っているがサウナ室では今でも熾烈な耐久戦が繰り広げられている。今は影二がじゃんけんに負けて体を起こしている。別に彼も辛そうではない。そのあとは狛太が負け、全員が一度ずつはサウナ以外の汗をかいた。

 この後も疲れを見せず上体を起こし続ける。


 サウナ室に入って十三分経過。

「わりぃ、出るわ。きっついわ」

 そう言葉を残し煌輝が立ち上がってサウナ室を後にする。後ろ姿が何とも神々しい。

 それもそのはずだろう。112回目の腹筋をやり、息を切らし、十三分という何もしなくとも辛い時間入っているのだから。

 現在サウナ室には僕と狛太はくだけの二人っきりだ。

「行っちゃったね」

「そうだね。でも辛いから仕方ないよ。正直僕も早よ出たいと思ってる。狛太はくは辛くないん?」

「そりゃあ俺も辛いと思ってるよ」

「だよね」

 温かい空気が暖かくなる。

「最後まで残ったのは勝ちたかったのもあるけどね、影ちゃんと二人きりで話したかったからなんだよね」

「話したかったことって何よ?」

「影ちゃん。悩んでる気がするってさっきは言ったけれども、はっきり言わせてもらうと何か隠してるでしょ?」

 カラカラの体でつばを飲み込む。

「先々週の中間テストの数学のやつはもしかして影ちゃん?プライド高いもんね~」

「へ⁇」

 啞然。そして脳のあらゆる細胞をフル稼働させ、記憶を隅から隅まで余さず探す。

  ―イッケンノガイトウスルデータガアリマシタ―

 脳内の検索エンジンに引っ掛かったようだ。

 狛太の言う[数学のやつ]というのは十月中旬に行われた中間テストのことであり、学年唯一の満点を取った人がいたがその人は名前を書き忘れたというやつだ。

 それは僕で当たりだが【現在】でも誰にも言っていない。それは狛太はくの言う通りプライドが高いためであった。

「あれ?違った?」

「違うよ。僕はそんなミスしないって」

 眉一つ動かさず、いけしゃあしゃあと噓をつく。

「そ・れ・と、別にプライドが高いのはいいじゃん!自論だけどプライドがない男は男じゃないと思ってるからな‼」

「わかったよ。あと、論点ずらすなよぉ」一息ついて追加で話される。「ごめんな、なんか変なこと聞いて。詫びに出るわ」

「僕も出ようと思っていたから一緒に出ようよ」

 何一つ解決していない。だがそれでいい。

 こうして人知れず始まった戦いにピリオドが打たれる。4人がいたサウナ室の温度はいつの間にか97度まで上昇していた。

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