9ー1枚のー
ー2020年11月3日12:41ー
憩いの湯到着。
歪であるがよくよく見れば精工に作られ、きれいに削られた木板が扉の上に看板として飾ってある。その看板には「―憩いの湯―」、そしてそのすぐ下に「至上の極致へようこそ」と彫られたところに墨で塗られている。
煙突から巻きあがるモワモワとした煙が印象的な一般的な温泉の外観をもっている。
休日といえどもお昼時なので駐車場には車が数えるほどしか停まっていない。
「入ろうぜ」
そう言われるが、僕は反射でつい「ちょっと待って!」と口走った。
「どうした?」
「入る前に人も少ないし、天気もいいから写真取ろうよ!」
「じゃ、一番腕が長いから俺が撮るよ」
そう言ったのは煌輝だ。
パシャリ
「良い感じに撮れてるじゃん♪後で送っておくな」
四人が映った自撮り写真は眩しい。
幸か不幸か影二はまだ気づいていないがそこにある写真は、【現在】の時間軸では撮られていなかった………
銭湯に入るとすぐ右手に発券機、その奥に休憩できる座敷、左手には大きな売店がある。男湯、女湯、それぞれの湯の入り口には駅の改札のようなものが設置されており、出るのは自由だが入るのにはお金がかかる。
四人はそそくさと脱衣所に向かい服を脱ぐ。
互いに互いのリトルたちを目の端で捉え確認するがそれについて口を出すことはない。
煌輝以外は何かを感じて沈黙を貫く。すると
「山田、すんげぇ恵比寿様みたいだな」と煌輝が言い出す。
金太郎は身長161㎝で出るべきでないところが出ているので、服を脱いだ彼はまさに恵比寿様そのものだ。
「言いえて妙だな」
「あのね、僕だって頑張ってるんだよ。」
弁解するように説明する金太郎。肩で小刻みに笑っている
脱衣所には僕ら以外いないのでやんややんやと盛り上がる。
高校生男子にとって裸になることはネジが外れることとなる原因の一つのようだ。
ガラスでできた引き戸を引く。
パシャァ―――
水の流れてゆく音が気持ちいい。
さっきから見えていた景色だが浴場に入場するとそこは別世界。
興奮冷めやらぬまま浴場に入っていくと計七つの風呂(普通の湯が二つ、露天風呂が二つ、紅と白の湯、水風呂)とシャワー、サウナのある空間が広がっており、これを見て更に彼らの気分は高揚する。中には既に六人ほどいた。
僕らは右端のシャワーで四人仲良く並びちょこんと座る。
木でできた桶と椅子、大理石でできた台、とても風情がありもう既に来てよかったと思えるほどである。
「久しぶりに銭湯に来たけど今の銭湯ってこんなに進化してんの⁉スゥッゴッ!」
シャカシャカシャカシャカ
「煌輝君、煌輝君、僕は初めて銭湯に来たけど煌輝君はサッカー部の人たちと来たことあるんだよね?」
シャカシャカシャカシャカ
「あぁ、三ヶ月くらい前に部活後来たよ。特にあの[白亜の湯]が良かったんだよ。体洗ったらみんなで入ろうぜ‼」
頭を洗いつつ目はそちらへ向けて会話する。
「隣の[紅玉の湯]には入らなかった……いや、入れなかったから今日こそは入りたいと思ってるよ」
「煌輝がそういうならさっさと丁寧に体を洗って入ろうぜ」
流れゆくお湯の音に僕らの声が溶け込んでいた。
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