8ー寄り道ー

  ―2020年11月3日12:03―


 午前中の部活が終わり、今は部室でサッカー部が終わるのを待っている。すると狭い室内に一件の着信音が流れる。

  テンテロリンリンリン~

 Androidなのであの有名な着信音ではない。もう一度言おう、iPhoneでないので日本のあちらこちらで流れるあの着信音ではない。

 かかってきたのは僕のスマホにだ。相手は海之上伯太こと狛太はく。電話に出るのと同時にスピーカーにする。

「もしもし」

「もしもし、今部活終わったよ。だからあと10分くらいで行ける!準備しといて。あと、一緒にいる奴らにも伝えておいて」

 サッカー部の練習場所は学校から八分ほど離れた場所にある。そのため練習終わりから少し時間がかかっている。

「了解。準備しておくね。北門で待ってるよ」

  トゥルン

「だとさ、準備はじめるよ」

 僕らは衣からジャージに、ジャージから私服に着替えている。


~12分後~

 遠くから「お~い」と呼びかける声が聞こえてくる。

「悪いな、待たせちゃって。本当にすまない」

「別にそんなに待ってないからいいって。それに海之上は悪いことしてないんだから謝んな」

「ありがとう。じゃあどこ行く?影ちゃんはどこがいい?」

「じゃあ、行ったことないんだけど、[憩いの湯]に行きたい!」

 三人が声をそろえて『いいね!』と口にする。意外と高校生にとってたまに温泉に行くのは嬉しいものだ。

 学校からそこまで離れておらず、自転車で登校してない人もいるのでチャリは学校においておく。そこは一回400円とリーズナブルな価格でティーンエイジャーから還暦に差し掛かるような方まで幅広く利用されている大衆浴場兼温泉である。

「銭湯に行くなんて久しぶりだよ。どうして影ちゃんは行きたいと思ったん?」

「この四人で温泉行ったことなかったし、一度行ってみたかったんだよ」

 はくが少し距離をとり、自らの体を両腕でホールドし、

「影ちゃんにそんな趣味が……」

とかほざいている。「僕にそんな趣味ないよ」と笑い半分に言うが聞き入れられないようだ。

「狛太君、狛太君、影二君にそういう趣味があったとしても浮気になるから手は出されないよ」

「──確かにそうだな。大丈夫か」

「うんうん、渉はそんなことしねぇって。どこであれ彼女に抱きついちゃうくらいだからな」

「まだ言ってるよ。もう良いだろ」

 話ながら歩いていると大通りに出る。上田駅から一直線に飛び出す登り坂だ。そして僕らは上る方向に進んでいく。4人は道にある小さな石ころを蹴ったり山手線ゲームをしたりしている。自転車では速くてまじまじと細部を見ることができなかったため、歩きの速度になったことで細かい風景が脳で処理される。通りに7m間隔ほどで植えられている赤やオレンジなどの木々は街を彩っている。落ちる葉すらも味を出し、引き立て、変哲のない街が街本来の美を作り上げ美しい。「人ってスゴい……」とボソッと口からでる。

 そして、11月8日を過ぎたらどうにかして【現在】に戻ろうと考えていたため、こんな日常が毎日続けば良いのにと思う気持ちは心の奥底にそっとしまっておく。

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