5ー5分ー

 一人一人が各々のオーラを纏い、矢をつがえる

 矢が放たれれば息が呑まれ、圧巻の一言に尽きる

  ポッ

  ボンッ

  バッパッ

 冷えきったライブフロアに反響する

 弓道場は目まぐるしく回転するも物静かである


 男女それぞれ40射が終わり休憩に入る。練習しているときには気づかなかったがいつの間にか空ではヘリが一台飛んでいるようだ。音は大きくはないが少しだけ煩わしい。

「お前さん命中率爆上がりしてね?どんな練習したんだよ~」

 山に籠ってからは毎日欠かさずやっていたので皮肉にも命中率が上がっていたらしい。

「何もやってないよ。いつも通りの日常だったよ~」

「嘘つくなよぉ。じゃあなんでそんな苦虫を噛み潰したような顔してんだよ」

「………」

 一日過ごして忘れてかけていた。タイムリープをしているということを。そして、他の人が過ごす今日は毎日来る日常であって、僕みたいな戻ってきた特別な一日じゃないということを。山奥で暮らしていたときは生きているか死んでいるかもわからぬゾンビであったが、今は確実に生存している。人のぬくもり、暖かさ、存在感。これらは忘れていたものだ。自ら手放したものをまた拾い上げる行為がこんなに重く、つらく、かけ替えのないものだとは知らなかった……

「煌輝君、煌輝君、影二君の命中率が上がったのは弓の弦を新しく張り替えたからじゃない?ほら、弓の弦は新しいけどもそれ以外のところは少し汚れていて使い古しているような感じで微妙にミスマッチだし」

「よく気づいたね。最近換えたんだよ」

「ほんとだな。俺も換えてみようかな。そうすればもっと実績を作れて女の子にモテモテだ」

……そして、一緒に生きてくれる人の存在を。

 休憩が終わるころ、気づくと空には夕陽をバックに三台のヘリが翔んでいた。


 休憩が終わり、また黙々と弓を引き始める。

 数十分後、辺りは暗くなり、的が目視できなくなるためやむを得ず測定を終了する。そのまま軽く片付けをして、集まり瞑想をする。

 始まりの瞑想同様、座禅を組み、まぶたを閉じ、そっと集中する。

  ポッ、スッ、サッ

 誰一人として弓を引いてなどいない。しかしながら体の芯に音が響き渡る。

 これらは本日自らが奏でた弓の音であり、矢の音である。

 弓道部にはこの時間を感じるために入っていたと言っても過言ではない。

 心に残った音は正直なもので、失敗や成功を顕著に表し、そこから生まれるクラシックを奏で出す。

 ライトに照らされた舞台上の暗闇がアルプスの大自然に生まれ変わる。そこには一つの的とそれを狙う僕だけがいる、世界の中心は僕であると言わんばかりの世界だ。

 この世界に入り込んでしまえば、第三者視点からこの映像を見せられ、それはまるで停止ポーズ早送りスキップのない映画のように。

 たった五分間の音の世界。終わってしまえば二度と同じ世界を訪れることはできない。だからこそ、この無音のオーケストラを全身で浴びきる。終わってしまうと言い表せようもない凄惨な虚無感が襲ってしまうのを知ってしまっているので、一秒でも長い時間この世界にいられるように五感全てを使っている……


 瞑想と清掃が終わり拝礼をする。

 正座をし、二礼二拍手一礼して「ありがとうございました」と声をそろえて挨拶をする。挨拶という何気ない行為だが、タイムリープをしたおかげで感謝を伝えることや挨拶をするということに深い感動をし、この時に涙ぐんであったことは内緒だ。

 こうして今日一日の学校生活が終わりを迎える。

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