3ー人ー

  ー2020年11月2日13:00ー


 数学の授業が終わり二、三、四時間目の英語、美術、化学の授業も終わって、楽しい楽しいお昼の時間となる。

 鐘の音と同時に片付け出す生徒。まずいと思い授業終了を急ぎ出す教師。容易に想像しうるあの光景である。


 昼食は弓道部の仲間二人+αと僕で、毎日正門から入ってすぐにある大きな木陰で円状に食べていた。時たま吹く風にも満たない風が心地よい。今日もそんな天気だ。

 一緒に食べるメンバーは弓道部の中条煌輝、山田金太郎やまだきんたろうとサッカー部の海之上狛太うんのかみはくた

 煌輝(二年七組)は登録者が8000人いると言っている自称YouTuberかつチャラいやつ。

 金太郎(二年二組)はクラスのムードメーカーである。163cmの恵体でクラスのマスコット的存在でもある。ちなみに先ほどのHR前に先生にツッコミを入れたのはこいつだ。

 狛太(二年五組)は学年屈指のイケメン。その上桜奈の幼馴染であり、僕と彼女を引き合わせてくれた男である。愛称は[はく]で、僕はそう呼んでいる。

 濃すぎるメンツだ。でもって全員いいやつだ。

えいちゃんの朝の奇行は他クラスまで轟いてる。五組では二時間目前の休憩時間からその話題で持ちきりだわ」

「やっぱ面白いなお前。ぎゅうッと抱き着いたらしいな。うちの七組もその話題だったぞ。俺は渉のそういう奇行する変なところ好きだな」

「一ノ瀬先生も「嫌がらせかよ!」って言ってて笑ったよ。急にあんなことをするんだから、影二君は本当に天才だよ」

 三人が話した語尾に「ハッハッハ!」がついてるように見える。とうとう頭までイってしまったかもしれない。

 影二はそんなことを思っており、頬を赤くして人差し指でその頬をジリジリと搔いている。縮こまっていてその姿はネズミみたいだ。


「影ちゃんはおうちゃんにぞっこんだもんね~」

「学校一のラブラブカップルだからしょうがないもんな~。うらやましいな~~~」

 ぐうの音も出ない

「ぐぅ……」

 いや、かすむ小さな声でぎりぎり出た。

『お前ら話に入る隙がないぞ。あと煌輝よ、そんな舐めまわすように僕の顔を覗き込まないでくれ』

 こんなことをぐぅに込めたが周りの声に埋もれて誰にも聞こえてない。誰も助けてくれない。四面楚歌とはまさにこのことだ。

 影二はそっと無我の境地を訪れ、すべての話を受け流す。

 あー、久しぶりの母さんの弁当おいしいな~

 こんなことを考え、約十分の間スルリ、スルリと。

「影二君、影二君、でも今日の影二君は冗談抜きで変だよ」

「そうそう、いつもなら絶対に言い返すしね。」

「僕を何だと思っているのさ?」

 真顔で返答するが内心焦っている。実をいうとチョー焦ってる。

 話題は変わったが、タイムリープのことを気づかれたくはないと考える影二としてはこちらもまずい話題だ。半袖短パンの手ぶらでツチノコと出会うくらいまずい。


 純真無垢な顔をして「逆に聞くけども、いつもと何が違う?」と問う。

「気っ持ち悪っ!」

「おぉい!小さい[つ]が二個もあったぞ!」

 すかさず狛太にツッコミを入れる影二。

「それそれ。やっといつもらしくなったな」

 正直気づかれないよう振る舞っていたのにも関わらず、いつもとの差違に気づき、それを指摘されたのは嬉しい。そのせいでほほが緩む。

「やっぱ、お前変だわ」

 少し口角が上がっているとも、ジト目で言わるのは流石に傷つく。ライオンの爪でひっかかれたような痛さだ。

「渉といえば、11月8日は誕生日だよな?狛太、サッカー部はその日部活ある?ないなら誕生日祝いにどっか行こうぜ!」

「ごめんね。その日他校との交流試合で一日部活なんだよ。本当にごめん。明日の午後はどう?それなら空いてるけど…」

「そっか、明日は文化の日だったな。待って、予定表確認するわ」

 そう言うと少し大きめのリュックサックからクリアファイルを取り出して、透けて見える部活の予定表を眺めながら話す。

「うちの部活も明日は午前だけだから午後は空いてるわ。渉と山田も明日空いてるか?」

「わからないけど、予定あっても時を消すから大丈夫だよ」

『時間を消すて』

 狛太と煌輝が声を合わせてすかさず返し、しばし笑いに包まれる。一息ついて会話が再開する。

「あとは渉だけだけど、どう?」

「僕ももちろん空いてるよ」

 こう答えるも明日部活があったことも午後に予定があるかどうかも知らない。だが、なにかに駆られるようにそう返答した。

「じゃあ決まりだな。明日の部活後の12:30に校門前な」

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