2ー整理ー
拍手を二回で呼びかける。
「はーい、じゃあ始めるよー」
「紅葉も紅くなり、すっかり数学の季節になったねぇ」
寒いギャグを平気でどんどん言ってくるところだ。
凍てつく空間で動けるのは山浦先生ただ一人。
『数学の季節ってなんだよ!!』と突っ込みたいがそれは野暮なのでやめておく。というか皆同じことを思っているはずなのでわざわざ言う必要もないな。
なんなら中には呆れた顔で首をかしげるやつや「意味がわからない」と声に出してるやつもいる始末だ。
やっているのは極限の単元。
色々な値を無限大にとばしたり、0に持っていったりする単元だ。今日は極限の初めての授業だ。そんなわけで授業の導入は優しい。
「y=5xのxを∞にとばしたらyはどうなるかわかるか?そうだな、yも∞にいくな。そこでだが、なんで∞にいくと思う。わかるか?」
一度受けているはずの授業だがわからない。普通に考えれば当たり前に出る回答であるため、先生が何を聞きたいのかわからない。クラスは水面(みなも)に雫を落とした時のような静かさだ。
「いい?言っちゃうよ。これはね、連続してる関数だからだよ」
「先生、どういうことなんですか?」
『山田(くん)いいタイミングで質問するわ~』と心の中でクラスがシンクロする。
「当然の疑問だね。いいね!こうなるのはそりゃそうだと考えるでしょ。みんなは当たり前のように[連続の]関数を使っているよね。連続というのは前後がつながっているってことはわかるだろ。x=1があるからx=2がある。x=2があるからx=8がある。連続じゃなかったらそこで途切れるんだから次の値はわからない。当たり前だが忘れがちだ」
誰もが食いつくように先生の話を聞き、一種の催眠術にかかったように一人も目を離さない。
「話はズレルが現実もそうだろ。過去があるから今がある。今があるからこそ未来があり、未来を作れる。今という一時点を抜いたら、そこから続くと予想される未来は【本当の未来】とは言えないだろ」
教室が息をするのを忘れ、空間が飲まれる。
そこに間髪入れず更に話をつづける。
「お前らの未来はまだ確定していない。私の好きな言葉で[今を作れるのは今を生きている人間だよ]という言葉がある。これは某漫画のセリフでね、その通りだと思うんだ。ごめんね、授業時間使って話しちゃって。さぁ勉強の時間にもどろうか」
タイミングがいいというべきか、悪いというべきか…
因果なこった。
先生の話から『タイムリープであるなら、この時間軸で救えれば【現在】でも救われ、生きている』と結論づける。
顔は真顔だがどこか明るい。
『よし、11月8日はあの交差点に近づかないようにデートしよう。そして今度こそは最高の一日にする』
そのためにも人生で唯一無二の二回目の高校生活を過ごそうと強く決心したのであった。
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