第二章 ー祭りの灯火ー
1ーぬくもりー
ー2020年11月2日 8:13ー
「えっ、どうしたの?」
「なんでもないよ。桜奈の顔見たら嬉しくなっちゃって」
タイムリープする前の時間軸では既に亡くなっている。だからこそ再び生きている桜奈に会え、面と向かって話せることに言葉にできない喜びをおぼえている。
顔が歪んでおり、くしゃくしゃだ。
「影くん変だよ」
笑って返答してくれる桜奈がまぶしい。
そんな桜奈を目の前にして何もしていないことなんてできるはずがない。
ボッ!
「っん⁉」
ギュッと、そっと、抱き寄せ、抱きしめる。
桜奈の耳がほのかに赤いのは紅葉の季節だからであろう。
外野から「朝からイチャイチャしやがって」とか「純…愛…」とか「あんなにストレートに愛を伝えられるのカッコいいな。桜奈ちゃんうらやましい」とか言っている気がするが絶対に気のせいだ。
スマホのシャッター音?そんなものあるはずがない。たとえ鳴っていたとしても今はこの幸せな時間を一秒でも多く享受していたい。だからこそ黙って桜奈の熱をじんわりとじっくり受け取る。
そんなことを思っていても世の中は無常だ。聞き覚えのあるおっさんの声がする。これは気のせいにするわけにはいかないな。
「おいおい、朝から俺への嫌がらせなのか~?」
クラス中が笑いに包まれる。
腰に左手をあて右手で僕らのことを指さし、こう声をかけたのは32歳独身で当時担任だった一ノ
「
この一言で更に笑いの波が大きく渦巻く。
HR(ホームルーム)が始まるため笑いが収束しだし、そそくさと席へつく。
影二、桜奈、共にもじもじしている(前者の実年齢は21である)
「いつまで照れてんだ。嫌だったら教室の真ん中で抱きしめあってんなよ~」
今の先生は[先生]というよりも、彼女とイチャイチャしていたことをいじるただの[男子高校生]だ。
『そんないじるような口調で言うのはやめちくれ~』とこころの中で叫ぶが、もちろんそんなものは伝わるわけはない。(もう一度言うが、実年齢は21だ)
落ち着き、HR中に冷静な思考が脳をめぐる。
『生きてる、生きてる。桜奈が生きてる!少し考えればわかっていたことじゃないか。タイムリープなんだから過去に戻っているだけで生きているに決まっているじゃないか』
噛みしめるように幸せを感じとる。
そんなことを考えふけていると一ノ瀬先生が出て行った数分後に数学科の
そして一時間目は数Ⅲの授業。久しぶりの授業と数学ができることに多少の高揚感で心拍が大きく、早くうねる。すごく楽しみだ。
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