2ー心理テストー

 本日は雲一つない晴天である。

「おはよう!」

「おはよう!今日も可愛いね!」

 透き通るような声に対してこんなキザな台詞を吐くのは影二である。せめてものカッコつけだろう。でも実際に、白を基調としたワンピースに茶色のポーチを合わせた桜奈は、普段学校で見るより何倍も可愛い。上田高校は私服制の学校であり、普段からも私服姿は見ている。なのに可愛いときたもんだから、桜奈は今、マジもんの[カワイイ]になっているのだろう。

 ちなみに影二はというと、白のTシャツに半袖黒のアウター、黒のボトムス。そしてウエストポーチを肩から掛け、右手首には腕時計。The男子高校生といった装いだ。


 時刻は9:56、約束の「10時にArioのゲーセン前ね」より少し早い。ちなみにArioとは上田駅から徒歩5分のところにあるArio上田というショッピングセンターのことであり、お金のない中高生がデートスポットとしてよく使う場所だ。本日、デートでここに来たのには他の理由もある。

「どこからまわる?凪さんのトークショーは早い方は一時から、遅い方だと三時からだよね」

 そう、理由の一つとして凪恒二なぎこうじのトークショーを観に来たのだ。

 凪恒二とは現在大学4年生の22歳(本日で23歳になる)でありながらもバリバリに働き、若手天才声優として世界中で名を馳せる男だ。彼は上田市出身であり、なんと影二と同じで今日が誕生日だ。そのためバースデートークライブということでお呼ばれされている。

 影二と桜奈は凪のファンだ。

「どうにかして時間を潰そうか。服とかでも見てまわる?」

 うぶである。初デートでないのにこんな初々しいのは影二の良さであろうか。服を見てまわる?という提案は暗に「私服ダサいね、換えたら?」と言っているようなものだ。それも女の子に対して…。

 にこやかに

「じゃあ、二階にある帽子専門店からまわろ!」

 流石である。

 2人の楽しい時間は流れ過ぎ、昼食をとり、時刻は13:00少し前。場所はイベントホール。


 ホールは突き抜けになっており、半球形に凪恒二を取り囲む。舞台上に立つ彼は男性にしては長めの白髪を後ろで束ね、右手でマイクを持ち、にこやかにこちらに視線を向けている。

「今日は本当に呼んでくださりありがとうございます。いや~、上田はいいところだよね!戻ってきたいと常々思っていましたよ。そんな時にこのようなお話をいただいて大変感謝しています。関係各所の方々、ありがとうございます。でね、今日はね皆さんと心理テストして、それについた話をしようかな、なんて思っているんですよ。」

 淡々と話しているようだが、テンポ感が良いのか内容はあまり無いようなものなのに場の空気を暖めて己の世界をここに構築し始めている。

 先ほどまでの騒音としか思えないざわつきが、ここにいる者ならば100人中99人が心地よいと思う凪恒二のBGMへと変わっていた。

 思わず普段は滅多に人のことを誉めない影二も「何がいいとか上手く形容できないけど、凄くいいね!」と桜奈にいうほどだ。それに対して満面の笑みで返す。


 このやり取りの間にも凪は話し続けている。

「じゃ、さっそく始めましょうか。

では質問です。あなたの最愛の人が罪を犯し、死刑宣告をされました。そして、あなたが殺し方を選ばなくてはなりません。最愛の人は恋人でも家族でも、あなたが最愛だと認定できる人なら誰でもいいです。その場合どの殺し方を選びますか?四択ですよ。

 ① 縊死 ひもで首を絞められます、現在日本で行われている死刑方法ですね

 ② 餓死 1ヶ月水と食事抜きます

 ③ 事故死 時速70Kmオーバーの車やトラックに轢かれます

 ④ 病死 病原体を体に打ち込まれ、3ヶ月かけてゆっくり体が侵食されます

因みにどの執行方法でもあなたが手を下すわけではありません。さぁ、どれか選んでください。時間は30秒とりましょう。」

 突然の質問に少々の沈黙とどよめきが訪れる。最初は驚いたようだが、心理テストと割りきりその場にいるほとんどが冷静に考え始めたようだ。そう、が。


「馬鹿馬鹿しい。俺はいやだよ、死ぬところなんかを想像するなん…」

 と一蹴している影二は横目に青ざめた少女を見る。それはもちろん桜奈である。少し過呼吸気味であった。

「ここを離れよう」

 そう言い、半ば強引にお姫様抱っこをする。周りの目などを一切気にも留めずに座れる場所を探すためフードコートへやってくる。水を汲んできて少しの間様子を見る。

 明らかに異常だ。彼女は普段ホラー映画を見ようとピンピンしている人であるので不自然だ。

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