第2話
私はルーベルト様が現れたのを確認し、膝をつきご挨拶をすることにした。
カレンも同じように膝をついた。というより膝からがくんっと崩れ落ちた。
そして、その様子に私は満足しながら舞台女優になったように大きな声で熱演する。
「ごきげんよう。ルーベルト様。思っていた通りでした。やはり妹は私の婚約者であるルーベルト様を欲しがりましたので、妹のカレンとどうかお幸せに」
「あぁ、エリナ。お前の予想が当たったな」
ルーズベルト様はドブネズミでも見るような目つきでカレンを見ている。
カレンはその視線に耐えきれないといわんばかりで叫び始めた。
「キャッ―。近寄らないで。エリナお姉さま……なんなのよ、これっ!!」
「これって失礼よ。この方はあなたが欲しいと言ったルーベルト様よ」
カレンは、この状況に完全に血の気がひき真っ青な顔になっていた。
「嘘よ……こんな人でもない……言葉にするのすら、おぞましいわ」
「ルーベルト様、まだネタ晴らしするのは早いですわよ。銀髪が美しい隣国王子姿でないと困ります……見てください。カレンが珍しく怯えていますわよ」
「そうだったな。悪い悪い。いきなり呼ばれたからな。つい、そのままで来てしまったんだ」
黒い光に包まれた瞬間、あら、不思議、隣国王子ルーベルト様の出来上がりである。
カレンの叫び声に気づいたのか両親も私の部屋に慌ててやってきた。
「カレンなにかまたされたのかい……? ってこれはこれはルーベルト殿下、いつ頃いらっしゃったのですか。お茶のご用意もせずに申し訳ありません」
「お父様、こっ……本当はねっ……」
「カレンどうしたんだ。珍しく汗なんか流していて。暑いのかい?」
「いえ……この汗は……冷や汗よ」
汗を拭い、必死で説明をしようとしているみたいだけど、ルーベルト様が怖いのだろう。なかなか本題に入れないようだ。
その様子を見ていて少し気分がスカッとする。
お父様はそのモジモジした様子に勘違いしたようだった。
「あぁ、そうか。また欲しがりのくせが出たのかい? 仕方ない。エリナ譲ってやってくれないか?」
私は待っていましたと言わんばかりに声高々に答える。
「あらお父様、今ちょうどその話をしていたのですわ。カレンが欲しいそうなのでルーベルト様さえよければどうぞって」
「お父様……違うのよ。私は……こんなのはいらないのよ」
「ハハハ。欲しがらないなんて珍しいな。それともよっぽどルーベルト様の容姿が好みだったのかな。本当に愛する者の前だと欲しがりも出ないようだな。わっはっはっは」
お父様は大声で笑っているが、カレンは黙りどうすべきか策を練っているようだ。まだ、油断はできない。
それにしても、お父様もここまでくると親バカ通り越して、頭のネジが一本抜けているのかもしれない。お母様も優しくカレンの頭を撫でている。
そんな様子を黙って見ているルーベルト様は私の方を向き、ため息を漏らしていた。
やはり、私を心配してくれるような家族はここにはいないようだわね。
普通だったら私を一番に心配するのではないだろうか。
今だどこかで私の味方がいると期待していたようで、ショックを受けてしまう。
こんなに弱いからダメなのよね。
私は気持ちを切り替え、カレンに再びにっこりと微笑んだ。
「カレン、私はルーベルト様と婚約解消するわ」
「……私はいらないわよ。こんな化け物なんか」
「カレン、ルーベルト殿下に何という口の利き方をするんだ!! 失礼だぞ。謝りなさい」
「だって、お父様これは……」
パチンとカレンの頬を打つお父様。
さすがは仮にも貴族である。隣国とはいえ、王族に対しての振る舞いはわきまえているようだ。というのは建前で実際には後からの報復が怖いだけなのかもしれないが、権力には抗えないようだ。
「いい加減にしろ。早く謝りなさい」
カレンを無理やり座らせて、同じように横に座り頭を下げる。
「殿下申し訳ありません。ご無礼をお許しいただきたく……もしくは私の首で勘弁していただきたい」
「いいや。お前の首などいらん。そのかわり、このカレンをもらうことにしよう。よいな」
「は、はい。カレンでよければ喜んで差し上げます」
カレンは仏頂面でお父様を睨みつけており、謝罪する気など微塵も感じられない。
かなり度胸が据わっているとしか言いようがない。
「お父様……カレンは嫌です。こい……殿下の元へは行きたくないです」
涙をウルウルと溜めてお願いお父様モードである。
またでたのかとがっかりしているとルーズベルト様は私に尋ねてきた。
「エリナは俺と婚約解消してもいいだろうか。お前にはもっとお似合い、いや、エリナには気になる相手が他にいるのだろう?」
まさかの言動に私は驚いてしまう。そこまでお見通しだったなんて……
恐るべしルーベルト様。
「は……」と答えようとしたら、カレンが発言を遮り邪魔をする。
「殿下、私が無礼とおっしゃるのなら、エリナお姉さまも同類ではないでしょうか? 殿下と婚約しているにもかかわらず他に気になる人がいるなどおかしいではないですか? これは処刑レベルなのでは?」
揚げ足を取ってくるなど、さすがは妹、恐るべし。
ルーベルト様の優しさが仇となってしまった。
「カレンだったか? 俺はお前を気に入ったんだ。その土壇場でも人を貶めようとするそのギラギラした目。エリナは純粋で素朴ではあるが、俺の妻になるのは優しすぎる」
ルーベルト様は語彙を強め、これ以上の発言は許さないと言わんばかりの殺気を飛ばしたが、ほんわかしたお母様が手を上げ発言する。
「わかりましたわ。私いいことを思いつきましたの。エリナを愛人にしてはどうですか?」
「はいっ?」
いきなり愛人発言が出されてしまった私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「愛する私の妻アイナよ。さすがだな。その手があったな」
興奮気味で喜んでいるお父様はお母様の提案に乗る気であるようだ。
ここまで私はいらない子だったのかと胃が痛くなってきた。
ルーベルト様を見ると呆れ顔だった。
私も唖然としてしまい開いた口が塞がらなかった。
これはもう穏便に済ませようとしていても埒が明かない。
これ以上付き合わせるのはルーベルト様の怒りを買うだけである。
カレンにだけ仕返し、いや、やり返せればいいと思っていたが、両親にもお灸を据えた方がいいかもしれない。私は強行突破に出ることにした。
「ルーズベルト様、正体を見せていただけませんか? もうなんかどうでもいいです。最後の最後まで私の心配してくれる家族などどこにもいなかったのですから……」
「わかった。エリナ」
「いや、だめよ。あんな姿になられてはだめっ!! 絶対にダメよ。エリナお姉さまおねがい、ルーズベルト様をこのままでいさせて」
「うるさい!! いい加減にしろ!!
ルーズベルト様の怒号とともに私の部屋黒い煙が巻き上がったのだった。
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