欲しがりの妹が婚約者を欲しがりましたので喜んで差し上げます
SORA
第1話
いつも通りカレンは私に当たり前のように言ったのだ。
「エリナお姉様、婚約者のルーベルト様を私に下さい」
いつもならその言葉だけでも苛立つのだが、今回はちがう。
ニコっと私が微笑むとなぜかカレンは驚いたように目を泳がせていた。
明らかに動揺しているのがわかる。
それだけでも私の気分は高揚していた。
「お姉様、その笑みはなんですの……いつもなら睨みつけるのに」
「あら、カレン。睨まれている自覚があったのね。気づいていないのかと思ったわ」
「……私はそんな馬鹿じゃないわ」
「ふふふ。ところでルーベルト様が欲しいの?」
「気持ち悪いな……ルーベルト様はカッコいいもの。エリナお姉さまよりも私の方がお似合いに決まっているわよ。きっとルーベルト様も私が相手の方が喜ぶに違いないじゃない。私の方がお姉さまよりも美しいのもの」
カレンは金髪の自慢の髪を耳に掻きあげながら当然のように話す。
「そうね。あなたの言う通りだわね。ルーベルト様をカレンに譲るわ」
そういうとカレンは驚きを隠せないようだ。
私がいつも見せる悔しそうな顔を想像していたのだろう。
カレンはバカっぽい顔で口をあんぐり開けている。
そうよね。いつもなら私はあげたくないって一応お父様に訴えてみるものね。
いわゆる泣き落とし作戦なのだけど虐げられている私がそれを成功させることなど天と地がひっくり返ってもあるはずがない。
だけど、やるのはタダなのでいつもやるだけのことはやってみるのである……
だからこそ、今回の私の反応は意外よね。
「……っどうしたのよ。いつもみたいにお父様に泣きつかないの? おもしろくないわ。お姉さまが泣く無様な姿を楽しみにしていたのに」
一瞬その言葉にキレてしまいそうになったが、私には隠し玉があるのだ。
今キレるわけにはいかない。いつものようにグッと我慢する。
今日の我慢はいつもと違って胃が痛くならない。
腹は立つが気持ちに余裕がある。
「やっぱり、カレンは性格が悪いわね。ずっと嫌がらせのつもりだったのね。はぁ……」
「何よ。それがなんだっていうのよ」
「本当言うとね、ギリギリまで悩んでいたのよ。こんなことしてしまっていいのかって。でも、今までの欲しがり屋さんだったのは全て私への嫌がらせだったのよね。
もうカレンの気持ちは十分わかったから。これで私の良心も痛まなくて済むわね」
「お姉様どういう……」
カレンが目をキョロキョロとさせ、挙動不審になっている。
やはり、いつもとは違う私の様子を不審に思っているようだ。
「あのね、カレン悪く思わないでよ」
「だから何がって聞いているでしょ? 答えなさいよ」
「あなたが悪いんだからね。最後に今まで悪かったとか詫びでもあればね……私も考えを改めたかもしれないのに。本当に人を貶めることしか考えていないあなたにはある意味ルーベルト様はお似合いの相手かもしれないわね」
「ルーベルト様は隣国の王子様なのでしょ? 何も問題ないじゃないの」
「そうかしらね」
「何よ。その含みのある言い方……あぁ!! わかったわ。お姉さまはこの期に及んで最後の悪あがきをしているのね。私に取られて悔しいから。きっとそうね。そうなのよ。かわいそうなエリナお姉さま」
「本当におめでたい頭をしているわね。まぁ仕方ないわね、だって……そうよね。無理もないわ」
「さっきから何を言っているのよ。悔しいならいつもみたいに泣けばいいじゃない。カレンにあげたくないって。ほら早く。泣いて私に懇願しなさいよ。なら今回は特別にルーベルト様を諦めてあげてもいいわよ?」
私は妹であるカレンを少々、いや、かなり甘く見ていたのかもしれない。
正直ここまで性格がひん曲がっているとは想像もしていなかった。
口を開けば開くほどこの妹の性格の悪さが際立ってしまう。
これは私も罪悪感など感じず、この任務を遂行できるわね。
「ルーベルト様いらっしゃって。準備が整いました」
私が声を掛けると、どこからともなくルーベルト様が現れたのだった。
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