第60話 お礼としての品を
グロリーアにはだいぶ世話になった。そしてもう少しで私達の仕事が完了し、別れを告げることになる。そういうわけでカエウダーラと一緒に、とある工房に来ていた。ネックレスやイヤリングなど、おしゃれの飾りを作ることを専門としている。綺麗なものが多く置かれており、私達の世界でも通用しそうなものがいくつもある。
「おや。いらっしゃい。何か御用かな」
エプロンを着た小柄なおじいさんが慣れたように接している。耳とか尻尾とか、初めて見たとしても、スタイルを変えるつもりはないのだろう。凄いなと思いながら、私は伝える。
「はい。新しいものを作ってもらおうかと思うんですけど。というかこれを材料にやって欲しいんですけど」
ここで薄いピンク色の真珠を出す。おじいさんが驚く表情になった。それもそうだ。
「高級な奴じゃないか!? これどこで!」
「冒険者の依頼先でたまたま貰いました」
高級なものとして有名なのだ。そしてこれは本当に、依頼で貰ったものだ。金にしてくれと前の依頼者である夫婦から言われたが、生憎私達の活動資金は豊富で売る必要がない。かと言って無駄にするわけにはいかない。その時にソーニャがぽろりと漏らした発言で、私とカエウダーラはここにいる。功労者の彼にお礼として渡すつもりで。
「術師にとって良いものだとお聞きしたので、これをアクセサリーに出来ないかと思って持ってきたのですが……厳しいですか?」
「それは大丈夫だ。職人はあくまでも魔力を使わないし、変えるのは形状だけだからね。どういう形にしたいんだ。というかひょっとしてあれか。結婚前だからそういう?」
何を言っているのだろうか。そもそも同性の可能性もあり得るだろうが。そう言いたいところだが、我慢をする。
「いえ。お礼の品として、ブレスレットを渡すつもりです」
我ながら冷たい声を出したものだ。それでもおじいさんは怯えていない。むしろ納得しているように見える。
「それも大事だ。あーそうなるとあれだな。手首の大きさを調整せんといかんな」
そこまでしないといけないとなると、私の専門外だ。ちらりとカエウダーラを見る。任せなさいとウインクしている。心強い。
「一般的な男性のもので問題ありませんわ。彼は有名な術師ですので、シンプルなものがいいでしょう」
「分かった。それでも結構、金がかかることになる。それでも問題ないかね?」
紙に金額が映し出される。私は思わず、げえと声を出してしまった。持っている金で払えそうにないことぐらい、理解していたからだ。
「オーダーメイドで、かつ材料が高いものだからね。それ相応となるとこうなる。だから大体は一括で払ったりはしない。冒険者だというのなら、やってもらいたいことがあるんだけど。というかそれで町全体がきつかったんだよね。もうそろそろここの事務員が来るから待ってくれないか」
カエウダーラと顔を見合わせる程、最初は疑っていたが、本当に冒険者の事務員が来てくれた。そして私達ができるような仕事内容だったので、普通に引き受けて、依頼を達成して、どうにかお礼の品を入手することが出来た。今振り返ると……運が良かった。もし出来なかったら、何をしていたのだろうかと、たまに考えてしまう時もある。
異世界狩人と滅びの獣 いちのさつき @satuki1
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