第59話 ソーニャとテレッサ村の子供のお遊び
私はソーニャ。技術者として、狩人を支える仕事をやっている。武器のメンテナンスをやる時もあれば、爆弾などを作る時もある。元々科学技術を専門としていたから、新たな技術だって手が出やすい。
全ての事象にはルールがあって、それらを応用して説明できる。それこそ科学。そのはずだったが、仲の良い狩人の仕事で巻き込まれてしまった。科学というものが存在しない。魔法と神による世界に来ていた。まあ……やっていることは大して変わらないが。
「グロリーアさん。村に行ってくるっす」
疲れる時は疲れる。定期的に休憩を取るのも大事だ。作業場として使わせてもらっている主に声をかける。ちょっとぶらぶらとテレッサ村でお散歩だ。レンガや木で出来た暖かみのある家が並ぶ。牛が重いものを運んだり、おじさんが乳を搾る作業をしていたり、かつてエルフェン族がやっていた営みがそこにあった。なんというか。映画の世界をそのまま見ている感がある。
「ソーニャ姉ちゃんだ!」
頬にそばかすがある赤毛の五歳ぐらいの女の子が走って来た。多分私はどこの世界にいったとしても、子供と間違われてしまう運命にあるのだと来てから悟った。悲しいことに。
「おやまあ。ソーニャちゃん。いらっしゃい」
お母さんも普通に来た。肝っ玉母さん的なものを思わせるのは気のせいだろう。きっと。エプロンを着ている辺り、作業中だったに違いない。
「どうもっす」
軽く挨拶をした後に引っ張られた。赤毛の女の子にぐいぐいと。正直抵抗はしようと思えば出来る。これでも大人だ。とはいえ、そこまで酷いことをする性格ではないのだ。
「いやーソーニャちゃん、すまないねぇ」
赤毛の子のお母さんが申し訳なさそうに言った。こっちは気にしていないんだけど。
「気にしないで欲しいっす。こっちも良い気分転換になるから」
ずっと引き籠ると心が人の熱を求める。フリーランスになってから酷くなった。ぼっちでも問題なかったが、何故こうなったのかは不明だ。きっと集中力が切れた時のリフレッシュ方法として、本能が求めているのかもしれない。考えながら引っ張られていたら、どこかのログハウスにお邪魔することになっていた。途中で農業の道具があり、小麦粉を作るところもあったから、きっと小麦をメインにやっている農家なのだろう。
「わあ! ソーニャ姉ちゃん、来てたんだ」
中に数人の子がいた。茶髪の二つ結びの女の子、白い小さいエプロンを着ているのは確かワオンちゃんだったか。何度も会っているから覚えた。他はあやふやだけど。
「ワオンちゃん、どうもっす。他の皆も失礼するっす」
床にダイスと大きい紙があった。紙にはマスがあって、文字があって、絵があって。私達の世界にもあった「歩む道」というお遊びだ。金と結婚と車というものがあって、運次第で競い合う……運要素ばかりのゲームに近い。しかしここは農村ということもあってか、見事に農業関連にイベントしかない。これ。マニア向けにバカ売れするのでは?
「ルール知ってる?」
短い黒髪の女の子に聞かれた。そう言えば初めて遊ぶものだった。
「えーっと詳しくは分からないんすけど。これの数字次第で進んで、ゴールまで目指すって感じなんすよね?」
「うん。それならやろうやろう!」
というわけで全部は流石に長いから、面白いところをピックアップだ。一つ目は土地の争いだ。土地を借りて農業を営むタイプもいるとのことだが、賃貸料を払う手段で揉めていた。いやそこじゃないだろう。普通はあまりにも高くて、払えないで反乱を起こすパターンではないのか? 因みに主な手段として収穫量の一割だそうだ。副業で金を入れる人がいれば、地主がやりたがらない冬の働きでチャラになったりするとかもあった。互いのやり取りの内容を重視するからか。うん。よく分からない。
「あれ。ソーニャ姉ちゃん、困ってるのは何で?」
と金髪の三つ編みの子から聞かれたけど……適当に誤魔化すしかなかった。正直私らの世界の汚いところだし、子供に教えるわけにはいかない。下手したら親御さんに訴えられるかもだし。
よし。次に行こう。二つ目は農家同士の争いだ。価格競争とかではない。まだそういったものはない。少なくとも私が知る限りでは。ならばどこで争うか。土地だ。きっちりと境界線が分かっていれば問題ないが、時々あやふやになっていることもある。そうなるとやはり殴り合いだ。
「喧嘩だね。ワオンちゃん。ダイス振って!」
「えーい!」
見た目はかなり平和だ。ダイスを振って数字が上の子が勝つのだから。しかしこれは現実でやると……死人が出そうだ。鍬とかでやってそう。そう思ってた。絵を見たら、酒呑み合戦だった。血を出すのは確かに教育上よろしくない。けど……酒をたっぷり飲むおっさんたちの絵も良くない気がする。誰だ。編集者は。
突っ込むのはここまでにしておこう。三つ目に行く。それは小さい泥棒から作物を守るマスだ。魔物系の中に可愛らしい小鳥の類がいて、果物をメインに食べているのだそうだ。果物なら何でも食べるタイプで、一番熟しているタイミングでかっさらう。しかも魔法の罠を潜り抜けることが可能。どれだけ賢いんだ。明らかに脳みそ小さいだろうに。いや。これは理屈ではないのかもしれない。それを学んだマスだった。
「よくわからないけど、この子達が凄いってのは分かった!」
あと翻訳しきれていない私の台詞を傾げながら、元気よく言ってくれた小さい子達に癒された。純粋だ。ということでここまでにしておく。科学技術という概念はないが、その代わりに魔法というルールで動くこの世界に、教育制度なんて知らない。それでも分かる事がある。生きるために遊びを通して学ぶのは共通しているのだなぁ……と。
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