第三幕五話

「なあ、お前ら好きな人とかいるか?因みに俺はマリエッタだ。今からマリエッタを狙おうと思っているやつは殺すぞ。ついでに、マリエッタを好きなやつも殺すからな。」


マイトが脅迫にも近い質問をしだした。マイトがマリエッタを好きなのはみんな知っているし、他にマリエッタを好きな人はいないだろう。


「僕は女の子はみんな、平等に愛しているよ。」


「おい、ローゼルイス。そん中にはマリエッタも含まれているのかよ?」


「当たり前だよ。マリエッタを女の子扱いしないのは失礼だからね。僕は全ての女の子に平等に手を出すから。」


平等に愛すのはいいことだろう。しかし、平等に手を出すと言われると、人間はいいこととは思わない。


「あークソ、てめえはマリエッタ狙ってないだろうな?」


「狙ってねえよ。」


マイトに聞かれて、即否定する。ここではいとか言う奴はよっぽどのアホか、ローゼルイスだけだろう。


「てめえはあの、ティナとかいう女狙いだったか。」


「狙ってるわけじゃねえよ。」


そう……狙っている訳では無い。


「ミカエルは……ないか。」


「どういうことじゃ、マイト。我に恋愛は出来ぬと申すのか?」


「だってよお、てめえは女みたいなもんじゃん。」


「いい加減、我を男と認めるのじゃ!」


俺らはミカエルを男とは認めないだろう。こんなに可愛い男がいてたまるものか、いやいてはいけない。つい、反語表現まで使って強調してしまった。つまり、それほどミカエルは可愛いのだ。ミカエルマジ天使。


「ミカエルが男じゃないのに賛成な人?」


「「「はーい。」」」


俺ら三人は珍しく仲良く、手を挙げる。


「何故なのじゃあぁぁぁぁぁああ。」


ミカエルはどんな過酷な訓練でもあげないような、悲痛な叫びをあげた。普段は騒音で怒ってくる女子もミカエルだと見逃してくれるだろう。


こんな風に少しずつ打ち解けてきたメンバーだが、まだまだ分かっていないことが沢山ある。一番大事なのは『恩寵』だ。俺やマイトやマリエッタの『回復』は目に見えて分かってしまう『恩寵』なので皆にバレている。ティナは『恩寵』を使わずに上手くかわしている。セレンはこの前みたいにバラすことがなければ、バレない能力だろう。ミカエルの『恩寵』は謎に包まれており、ミルフやローゼルイスは訓練では使えない『恩寵』らしい。いつかの剣教室で学んだように、『恩寵』とは下手にバラしていいものでは無い。それを皆、わきまえているのだろう。


「そろそろ寝よーぜ。俺様をちゃんと起こせよ。」


「多分ね。」


「無理だね。」


「我が起こすから、安心するのじゃ。」


俺やローゼルイスはマイトに従うのを良しとせず、ミカエルは天使のような優しさで起こしてあげている。それぞれの部屋に戻り、皆寝ようとしている。俺は最近、実戦を出来てなくて身体が訛ってきている。今日辺りに戦地へと出掛けてきても悪くないだろう。皆にはおやすみと告げ、一人で寮を抜け出……。


「ロージェン、何処へ行くのじゃ?」


「ミカエル……。」


いつの間にか自分の後ろには剣を構えたミカエルが居た。


「少し戦地に身体を動かしに行くだけだよ。」


下手な嘘をつくよりも、正直に言ってもそこまで問題ない場面だ。


「戦地に身体を動かしにか……。中々面白いことをするのじゃな。なら、我と戦って身体を動かすのじゃ。」


「おーけー、正直助かるよ。」


ミカエルの『恩寵』を調べるいい機会かもしれない。だから、ここで俺は一つ手を打つ。果たして俺の力はどこまで通用するだろうか。


「行くぞ。」


ミカエルの号令と同時に氷の壁で攻撃する。いつものマイトを見ていたら、避けられることぐらい分かっている。大事なのはその後、ミカエルは大抵後ろに回り込む……。だから、後ろに向かって氷を打ち込む。


「いい読みじゃな。」


しかし、それもミカエルに当たっている様子はない。そして、俺の首にはミカエルの刃が当たっていた。


「参った参った。」


「かわしてから、更に攻撃が来てたのにはビックリじゃ。」


そう……ミカエルは読めていない筈だ。俺は後ろを向きながら『恩寵』を使ったのは今回が初めてだ。ミカエルが何をしていたのか……それを理解するために俺は一つ策を用意していた。


「ミカエル、ちょっと待っていてくれ。」


「じゃあ、我は少し部屋に戻るのじゃ。」


部屋に戻ったミカエルを確認して、あらかじめ創造魔法で作っていたスマートフォンを取り出す。もちろん、通信とかは出来ないが、今回はビデオ機能を使った。ミカエルが単純なスピードで避けていのかどうか、それを確認するための動画だ。スローを繰り返して、魔法で極限まで動体視力をあげて見てみると驚愕の事実が分かった。ミカエルは避けるときに……消えている。ラグがないから、転移とかそういう類ではないということは……。


「待たせたのじゃ。」


そして、俺は自分の中の仮説をミカエルに静かに告げる。


「お前……時を止めているのか?」


ミカエルは俺の質問を聞き、静かに微笑んだ。

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戦争に囲まれた異世界で 〜魔法と異能の異世界転生ファンタジー〜 @nyagawo18

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