第三幕四話
「ランス、買い物に行こーよ。」
レイチェルが騎士長になってから、暫く経った。今日は久々に戦地から出て、内地に戻ってきていた。レイチェルは初めての内地みたいでテンションが上がっているみたいだ。
「何か買いたいものあるの?」
レイチェルの俺に対する口調は敬語が無くなってきていてかなり嬉しい。
「そうだねー、ジャスミンはどこがいい?」
「え。」
「そうですね、レイチェル様と行けるのならどこでもいいですよ。」
レイチェルとデートだと思っていたのに、まさかのジャスミンも来るみたいだ。まあ、レイチェルが良いのならいいだろう。
「ウェスタ街の有名な服屋さんに行こ。」
「かしこまりました。」
「ランスは、いい?」
「ああ、問題ないよ。」
「じゃあ、ランスがジャスミンをおんぶして、運んでね。」
え……?
「だって、ジャスミンは転移魔法を使えないでしょ。」
「そんな……申し訳ありません。私は歩いて行くので、大丈夫です。」
「だってよ、ランス?」
「って、転移魔法で一緒に運べるだろ。」
「あ……忘れてた。」
「嘘をつくな。」
「ここはどこ、私は誰?」
「記憶喪失かよ!」
結局、レイチェルの転移魔法で俺らはウェスタ街に転移した。ウェスタ街には人が沢山おり、賑わっている。外で戦争や革命が起こっているのなんて知らずに過ごしているのだろう。
「て、めっちゃ並んでね?」
「そりゃそうだよー。でも、今回は裏技を使っちゃうよ。」
レイチェルは何やら複雑な魔法陣を形成して、俺らの姿を変えた。恐らく、変身魔法、魔法解除反発、魔力妨害などの魔法を何重にもかけて正体がバレるのを防いで、人族として侵入する気なのだろう。
「じゃあ、入ろ。」
ジャスミンは口を大きく開けて驚いている。高級店の警備は普通は一途の契約で警備魔法を強化された人がするが、それすらも突破できると豪語したのだ。
「これが、私の本当の姿だよ。」
レイチェルは俺にこっそりと耳打ちしてきて、ドキリとした。俺らは大行列の横を歩いて通り過ぎて行った。
「さすが、噂に聞いていた店なだけあるね。」
「確かに、デカイな。」
服屋とは思えない程のスケールの店だ。
「そう言えば、この街の伝説知ってる?」
「あの、伝説の女神の話でしょうか?」
伝説の女神……?俺だけピンと来ていない様子だ。
「昔、この街は誰も住んでいないゴミ溜めみたいな街だったらしいの。だけどある日、一人の銀髪の女神がこの街を一夜で変えたらしいよ。なんでも、荒れ果てた街が嘘みたいに綺麗になって、その後色んな施設が建てられて街が復興したらしいよ。なんでも、当時は住民が溢れかえっていたとか。それで、その女神の名前に因んで、街の名前が変わったらしいよ。」
「へー、すごいな。」
あくまでもこれは伝説だと言った。流石に本当の事だったら、やばいだろ……。その者は戦争を終わらせる力すら持ってそうだ。
「ランス、では早速コピーしよ。」
「お金使わない気かよ。」
「もち。」
レイチェルが一瞬でコピーをして、店を出ようとしていたら、誰かに後ろから肩を掴まれた。
「貴方達、何をやっているのですか?」
銀髪の少女は笑顔でこちらを見ていた。
「ウィンドウショッピングだよー。今シーズンの服の系統を見に来たの。そちらはどうしたの?」
「久々に魔族を見かけたので、声をかけてしまったのです。」
え……?
「あと……ここの商品を転売したら許さないですからね。その時、貴方達の命はないと思いますよ。」
それだけ言い残して、少女は消えてしまった。
「なんで、私の正体がバレたの……?」
「転移していたから、あの子も魔女なんじゃない?」
若しくは、伝説の女神が自分の創った街を守っているのかだ。 ま……そんなわけないか。
「とりあえず、店を出よっか。」
「うん。」
ひとまず、内地の宿に戻り服を創造した。あの規模の店なので服は大量に創られたので、魔力の消費がすごい。
「この系統の服、初めて見た。」
珍しい生地や織り方で出来た服が沢山あった。
「防御力なさそうじゃない?」
「可愛いからいいの!」
確かに、新しい系統なのにセンスがかなり良い。けど、あの少女がいると考えると、あそこには行きたくない。
「あの……レイチェル様は魔女だったのでしょうか?」
ずっと、黙っていたと思っていたジャスミンが声を発した。次の瞬間、俺の剣はジャスミンの喉元にレイチェルの剣は俺の剣にぶつかった。
「ランス、殺しちゃダメ。」
「でも、バレされたらヤバいだろ。」
ジャスミンは一途の契約をしているから、一気にエルフ全員にバラされるリスクもある。バレたら一番厄介な存在だろう。
「私、バラしませんよ。」
そりゃ、誰でもそう言うだろう。
「ランス、ジャスミンはそんな子じゃない。私はこの数年間、誰よりもエルフを見てきたから分かるの。エルフはみんな優しいんだよ。そんな……みんなを私は裏切るの。だから、なるべく私のせいで死ぬ人は減らしたい。」
レイチェルも魔女だから、別の生き物という訳では無い。全ての種族には共通の心を持っていて、思いやりがある。レイチェルはミシェルも殺さずに逃がしたし、俺とは仲良くなっている。好き好んでエルフを滅ぼそうとしている訳では無いのだろう。
「分かった。けど、契約魔法だけかけさせてくれ。」
「もー、疑い深いなあ。」
「私は構いません。というよりもお願いします。」
「了解。契約……ジャスミン、汝はレイチェルの正体をバラしたら、命を落とすことを誓いますか。」
「誓います。」
俺とジャスミンを細い光が繋ぐ。これで、ジャスミンはレイチェルの正体をバラしたら、死ぬことになるだろう。ジャスミンも死んでまで、レイチェルの正体を伝えようとは思わないだろう。
「ねえ、ランス。死の契約はやりすぎだよ。」
「バラさなかったら、問題ないだろ。」
「まあ……そうだけど。ごめんね、ジャスミン。」
レイチェルは小さな声で後半を付け足した。何故、俺がレイチェルの手助けをしてレイチェルがそれを拒んでいるのだろう。いつの間にか代わっていた立場と共に俺らは戦地へと戻っていく。
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