第54話 スマホで見れます
18人のユニットリーダーが囲む――救急隊員と私を。
「どうですかね? 意識の清明は確認されているんですけど、やってみます?」
リーダーの一人が問いかけるが、
「いえ、異変を感じたらすぐに連絡するということで……大丈夫そうですね」
ケガに緊急性がないと判断すると、救急隊員は帰って行った。
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「絆創膏ぐらい貼っとくか? もう乾かしといた方がいいね」
別のリーダーが言うと、
「髪が血で固まって寝ぐせが付いたみたいになってるよ」
はははとイワウは笑ってから、
「じゃあはじめよう」
神妙な顔で、リーダーミーティングの開始を宣言した――
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寮生が注目している中で大階段の下にリーダーが集まる。
立ったり階段に座ってみたりしたが、18人はどうにも多すぎるので、ミーティングの場所を別に決めるべきだ、という議題が提示される。
ラウンジの奥に移動して座って話そうという提案がなされたが、
「見えるところでやって!」「イワウさーん」「寝ぐせ
要望や声援と、野次が飛ぶ。
イワウは観客となった寮生たちに両手を振って応えてから、うーん、と考えて、
「械奈、あなたは何かできるんじゃないか? 寮生たちが満足するミーティングの場所はないか? 1階にある壁を全部ぶち抜いて広い場所をつくるか?」
不穏な気配がする。
「では、イワウさんのスマホで捉える画像と音を寮生全員のスマホに流します」
「それでどうなる? ……私は自分のは見えないんだよ」
瞳を上にやって白目を見せるイワウ。
私はマントの下、スウェットのポケットから自分のものを取り出した。
見ると画面にはスマホを持ってマントをまとう者が映っている――私である。
眼を上げるとイワウの頭上ではいつものように黒光っている。
顔の高さに保ったままイワウに背を向けると、画面の中の者も同じようにして、後ろを向いた頭の髪は跳ねて奇妙な形で固まっている。
「寝ぐせ
観客からの野次が飛ぶ――いや、今のは声援の意味が少し含まれていた気もする。
イワウが腹を抱えて笑うので画像が揺れる。
彼女から見える光景に似たものがスマホに映っているようだ――
**
「まず問題を整理して要約してください」
ユニットリーダーたちと私はラウンジの奥に移動してソファに着席すると、まず、ユニットWのリーダーの椿川煉が要望した。
では、と私が発言しようとするのをイワウが手で止めて、
「聖王様がバカだから、バカをなおす方法が知りたい」
簡潔に述べた。少し違うんじゃないかな。
「まあ、言い換えると、犠牲を出さずに来世に行く方法がない、ということでしょうか?」
椿川煉の居室はベルの隣の2006号室なので、彼のベッドはベルの上段である。
寝るときに全く音がしないので心配になるとベルは言っていた。
彼が問題を要約しなおしてくれたおかげで議論が進んでゆく。
「彼女自身が選ぶべきじゃない? どういう結末でも」
「犠牲は最小限にとどめるべきだ」
「船が公海上にあるとすれば指揮権は船長にある」
「船長がバカの場合には逆らう権利があるんじゃない?」
うんうんそうだよねえ、という顔のイワウ。
反論したいが、リーダーミーティングにおいて私は発言する立場にない。
聖符を確実に遠投する方法を聞きたかったのだが……。
「
「どの国にも属さないんだから公海といえる」
「だーかーらー、彼女が自分で決めればいいじゃない、何言ってんの?」
うんうんそうだよねえ、という顔のイワウ。
議論は言い争いになった末、多数決が採られたが票は半々で割れる。
みんなが疲れを見せはじめた。
二人が話し合って決めるしかない――
リーダーミーティングの結論が出された――
**
大階段を昇りながら互いの様子を窺うイワウと私。
「ミーティングは見てたわ。じゃあ、ちょっとやってみましょうよ」
2階の共有リビングに戻ると、いつものソファにはユニットCのメンバーが揃っていた。ふんわりと漂う香りに自分の疲れを認識する、イワウもそうだろうか。
口に運んでいた紅茶のカップをローテーブルに戻して、千早が言った。
やってみる……何を?
「アスタ、あなたは本当に分かってないわね。訓練なしで本番を迎えられないでしょう?」
と言うと?
「海をわたる稽古――リハーサルをやってみましょう」
私たちは魂を運ぶ訓練を開始する――
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