第42話 ヤンキーたちと逃走です

「やっちまったか二人とも? 初犯か?」

「逃げたら心証悪くなるから自首しなよ、初犯だったらさ……あーそっかあ軽くないのをやっちゃったかあ、やばいね」


 私たちが罪人であることを知ると、交番なるところに一緒に付いて行ってくれると諭すデカルトと青髪女子。 

  

「何やったかは聞かないぜえ、逃げるんだったら止める気もないしな」

「えーやめときなよおー、駅前交番が一番近いよ、場所分かる? このストリートをゴー、突き当り、ええっとラスト、トゥルーエンドでターンライト、分かる?」


 ――彼女が親切に言ってくれていることは分かった。 


「外人にはちょっと難しい曲がり角かもなあの道は、間違えるとすぐ山ん中で焦る焦る」

「だよねー、連れてく?」

 

 青髪とデカルトの二人は自分たちが乗って来た、二つの輪が付いた箱のない車――自転車を見る。

 

「犯人と二人乗りはさすがにやばいっしょ?」

「途中で見つかったら俺らも逮捕されっかな、歩いてこ」


 ちょっと待ってて、とデカルトが言って。


 ガラぁー


「店長ぉ! チャリ置いてくからぁ、役場ん人来たら俺らのって言っといてぇ! えーいいじゃんケチ、潰れちまえっ! いや困るから頑張れおっさん! 過労死すんな!」


 ガラぁー


 戻って来た。


 二人は横に転がしていた自転車を引っ張り上げた。

 だが、やっぱり地面に戻す。


 私たちの空腹に気付いた彼は、透明な箱の中で蒸し上がった白いものを店舗で買い求めて戻ってきた。デカルトは手の平をこちらに見せるだけして対価を受け取らない意思を示す。

 

 パンでもご飯でもないほかほかと柔らかい皮の中には甘い餡が入っている――あんまん。

 あちち。――餡が炎みたいに熱いから気を付けて。

 美味しいねえ。――店主が夜なべして捏ねたのだな。


「食ったら行くか」「飛び出し注意、右みて左みてもう一回右みて、きゃははは可愛いねえ、この子!」


 チャリを押す陽気なヤンキーたちに導かれて私たちは進みはじめる――


 山沿いのひっそりした道。

 朝はまだ早く、車も人もほとんど通らない。

 歩道を二人ずつ並んで歩く。


「ねえ、頭のなんでつけてんの?」

「これは、頭に乗せて……です」

「え? なあに? 山から風吹いててよく聞こえないんだけどぉ?」

「機械に勝った……です」


 見知らぬ道をゆくからか緊張して子ぎつねに戻っているイワウ。


「おい金髪! いや名前は言うな! 聞かれても俺ら知らんって言うから」

「どこか別の場所に行って償える罪じゃないんだ」

「おーマジか、まあやっちまったもんは仕方ねえんじゃねえ? 俺らは知らんけど」

「確かにそうか。償えるかどうかはもはや問題ではない、どうやって日本で暮らしてゆくのかを考えるべきか……」

「そだね、今度会う時にはラップバトろう……あ゛? っっ!」



 ぐいっとデカルトが私の肩を引っ張って、

 

「このまま脇入るよおー」振り向かないまま真横を指差すデカルト。

「オッケー、うちらハイキング来たんよ、篭の袋にアンマン1個残ってるし、見てやホンマやでって言うわ」


 予定の道を逸れることに躊躇ない二人に連れられて私とイワウも山沿いの斜面に進む。上っているうちに、白と黒に塗り分けられた機械の車が通り抜けて行った。

 

 P O L I C E 


 車体には記された文字――警察の車両である。

 私たちの罪は日本の警察に追われるようなこと……だったかな?

 しばらく木陰に潜んで、道路に走って戻った。


「よし! 戻ってこねえ、コンビニ行ったか? めんどくせ、このまま交番まで行っちまおう」

「行っちゃう? これは行っちゃうね」


 二人は自転車にまたがった。

 さあ乗った早く乗ったと合図されて私たちはそれぞれ後輪の上の荷台に座る。


「頭のスマホ落とさないように注意!」

「道路交通法違反、やっちゃだめ、だからバレないうちに交番に行く!」


 立って漕ぐデカルトにしがみつく。なんて緩い布だ、つかみどころがない。

 イワウもしっかりつかまって! 

 青髪が露わにしている太ももはほぼ筋肉だったのか? 彼女の漕ぐ自転車がデカルトを追い越す瞬間――腰にぐるっと両手をまわして頬もべたっとくっつけているイワウと目が合った。


 偽聖王様、私たちどこ行くんだっけ? という顔。

 トゥルーエンドの先にあるところだって、と視線で返した。


 地元民でも難しい曲がり角を正しくターンライト。


 ギギギー


 はじめてブレーキが使用されて2台の自転車は止まる。

 私たちは駅前交番に辿り着いた――

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