第24話 恋なのです
「……それは恋じゃないかな、ふつうはね」
借りたスウェット上下を返して、コンビニで出会ったデカルトや青髪たちのことを話すと、彼らは良心的なヤンキーだと言って笑う火狩に、人が何か決定的に変わるということがあるのだろうかと聞いてみると、即答を得た。
……恋。
果ての見えなかった迷走の中、ようやく手がかりを掴んだような気がしている。
ふつうは――公民だって恋をして好きになった者同士が婚姻する。
私たちはいつも婚礼の儀式で遠くから花嫁と花婿を眺めるだけだった。が、
役目がなければ? 聖王と聖棺でなければ?
「人を好きになったら、相手に好かれたいと思うだろうし、今までの自分とは違うものになろうとしたり、しなかったり、わざわざ考えることもなく変わっちゃうことってあるかもね、そういう奴は何人も見たよ」
僕は全然興味ないけど、という感じで長く通った首筋を指先で掻きながら彼は言った。
「イワウさんとは血はつながって……ないよね、だよね、そうだと思った」
「恋というのはふつうどうやって開始されるのか?」
あれ、そういう感じ? という顔をして、
「ちょっと僕の手には負えないなあ、そういう相談は……、面倒とかそういうんじゃなくて……僕はロマンティックとは無縁できたし、うんアスタと同じだ、恋愛を知らん男が二人で話し合っても成果は見込まれない、これはベル……よりも千早に頼もう!」
私たちは千早を探す。
**
「ふーん、で、どっちがイワウを好きなの?」
「違う、全くそういう話してないだろ、ちゃんと相談乗れよ!」
「うるさいわあ、騒いでるとあなたがイワウを好きなんだと思うわよ」
「…………」
リビングにいるとイワウに聞かれそうなので、私たちはラウンジの隅のソファ――本来は二人掛けに作られたものに身を寄せ合って3人でなんとか座って話をはじめた。
真ん中に座った千早が楽しそうな顔をして、真横で黙り込んだ火狩を眺めている。
彼が困った顔をするのを初めて見た。
「つまんないわあ、アスタとイワウだったら、放っておいてもいずれそうなるから何もすることないんじゃない?」
放っておいたらどうなる?
花嫁と花婿のようにお互いを見つめあって恥ずかしいような嬉しくて呆けるような不思議な表情を浮かべるようになるか?
――へへへ聖王様、おいしい。
なぜかビスケットを口いっぱいに頬張るイワウの姿が浮かんだ。
――そもそも恋とはなんだっただろう?
「距離が近すぎるとまあそんなものか、じゃあねえ……、『あなたと一緒にいたい、ずっと一緒にいたい、他の誰にも渡したくない』この言葉――魔法の呪文と私がたった今名づけた素敵な台詞を、相手が目の前にいると想像しながら居室で1日に100回唱えなさい。本番だと思って心をこめて声に出して言いなさい、訓練を1週間続けてもらう」
「おい、千早、明らかおもしろがってるだけだろう」
「未恋愛者がうるさいわあ、余計なこと言うとあなたにもやらせるわよ」
「…………」
私は魔法の呪文を知ることができた。
恋とは何なのかそれで知ることができる。
――へへへ聖王様、おいしい。
「あなたと一緒に……」
これはやりがいのある訓練だ――
**
「アスタ……、来世の国ってのはどういうんだ?」
千早が鼻歌まじりに去って行った後のソファに二人が残る。
私にしか聞こえない声の大きさで、彼は未来のことを尋ねた――
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