第17話 地毛でいけます
イワウを見送って残った私たち4人は、ベルの淹れた紅茶を飲みながら帰りを待つことにした。
マント姿はともかく頭にスマホを乗せて行けば、話し合いを放棄していると他のリーダーからみなされないだろうか?
爽やかな香りに包まれて不安はやや薄まる。
ミーティングの趣旨は共有部分の清掃方法に過ぎないんだから、結局何かが決まるだろう。自分たちが選出したリーダーをある意味信じることにして、半ば思案するのを諦めて話題を変えた。
もう一つの新しいスマホ――私のものだ。こちらは一般的な使用ができるようにしたい。
――こんにちは
止まっていた画面を見せる。3人から助言を受けて設定を済ませる。
会話して操作することもできるらしいが悪い夢を見そうなので止めておいた。
スマホと会話しなくても普通に使えるらしいし、イワウが見たら怒ると思うし。
「この地図はほら、拡大したら細かくなるし、寮からコンビニまでのルートはこう、うわー徒歩15分もかかる! ベルは車用意できたりしない? 校則かそれは仕方ないね」
小村千早の指が地図を叩くと道路上の風景、動かす指に合わせて全ての方角を見ることができる。
見えない糸につながる情報を閲覧したりできるのがウェブと聞いたが、これには神聖な力が加わっているの?
「こんなのは単なる情報よ、ねえ公国に魔法ってあるの? 魔法って? ほら……呪文を唱えたり、竜に挑んだり……」
「何の話をしている? 私の日本語はまだ完全でないのかもしれない……へえこれが竜?」
スマホの画面には竜という巨大な獣が表示されている。
全身を覆う鱗は鉄より硬く刃が通らないらしい。勝ち目は消えた。
巨大な体躯を生かして敵を潰し、爪の斬撃で甲冑ごと八つ裂きにするほか、口から炎を吐くそうだ……。
――竜のいない公国で生まれ今まで生き延びたことに初めて感謝の念を覚えた。
こんな恐ろしいのはいないと伝えると、がっかりした千早の指が画像を閉じる。
一度でいいから見てみたいと述べる彼女は実は心を病んでいるのかもしれない。
遭遇時は生涯の終わり、あるいは世界の終わりだ。え⁉ 日本に竜の伝承が?
不安を隠しきれない。
私に訪れる死は思いがけず早く、日本にいるかもしない竜によってもたらされるかもしれない。イワウにも注意するよう伝えなくちゃ。
スマホの画面は最寄りのコンビニへの経路を示す地図に戻った。
聞くと、食品や雑貨を売る小型の店舗であり、24時間開店している上、一日も休まず営業を続けているらしい。
――私は店主の健康を祈った。
聖王の役目は過酷である、もしかしてひょっとすると思い違いであるのかしれない。コンビニ店主がどのような経緯で不眠無休の連続営業を続けているかは知らないが……。彼はせめて食事を摂っているのだろうか。
地図上のコンビニをタップすると店舗の外観が表示される。
やたら明るい店舗の外には若者たちが寄り集まっている。髪の色はそれぞれ違う。
クチコミ ★★☆☆☆ 星2
店の周りが散らかっている、男子トイレがとにかく汚い
クチコミ ★★★☆☆ 星3
ヤンキー多すぎ、店員もヤンキー、店長の心労を察する
コンビニを訪れた誰かの記述が地図上に表示されている。
どうやら店長は食事もままならない状況にあるのかもしれない。
店舗前に集う者たちについて尋ねた。
「年中ジャージか上下スウェット着てるイメージだけど合ってる? 理由? 私もよく知らないんだよね」
「英国で「チャヴ」と呼ばれる若者に似ています」
「彼らは反権威のポリシーを体現してるんじゃないかな? ルールに縛られず自由に生きたいっていう、まあ法律に触れないか捕まらない範囲で、僕は嫌いじゃないよ」
――ルールに縛られずに自由に生きる。
それは私の求めているものかもしれない。
未来を考えないという鶴来火狩への憧れに似たものを私は感じ取った。
ヤンキーについて詳しく教えて欲しい。……金髪? なら私は条件を既に一つ満たしている。
――そうかコンビニに行けば直接会えるのか?
――でも途中で竜に襲われない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます