第3話 お役目ですか

 すぐに広いラウンジが人でいっぱいになって、私たちは長椅子に座ったまま身動きがとれなくなった。巣穴を間違えた子ぎつねみたいになっているイワウ。


 白い壁が輝く――いや、強い光を浴びせられている。水晶球を通った光のように結像して、英愛寮の外観の姿をとった。同時にはじまった軽快な音楽は急激に音量を上げてゆく、シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン。

 楽器を放り出したみたいに演奏は途切れた、その静寂が破られる――


「はーい、皆さん、こーんにーちはーっ! 英愛寮にようこそ!」


 管理人の凄まじい声量で身体全体に振動が伝う。

 私の肩に顔を寄せていたイワウは両耳を手で押さえている。


「ラウンジに集まっているのは新寮生の30名とぉ、2年3年の寮生の約半分です。細かなことは後にして、まーずー、とにかく最初に寮生活の基本グループ――ユニットに分かれてもらいます、スクリーンをご覧くださーい!」


(学籍番号)

 R40001 黒瀬イワウ―――――CAT

 R40002 鶴来火狩――――――CAT

 R40003 ベル・ネイファスト―CAT

 R40004 小村千早――――――CAT

 R40005 石沢アスタ―――――CAT

 R40007 涼木祥乃――――――WOLF

 R40010 椿川煉―――――――WOLF

   ・

   ・

   ・


 私たちは自分の名前をすぐに見つけることができた。


「学籍番号の順番で5人が1組となって一つのユニットを形成します。学籍番号は入試の成績順だから文句はご自分に言ってください。さあみんな自分の名前の下の動物たちに気付きましたね、ユニットの一つ一つに動物が当てられているから今すぐ覚えて忘れないでください。頭文字で呼ばれることもありますので注意です! 今日はあと5秒だけ待ちますね」


 5、4、3、2,1


(集合場所)

C 2階海側共通リビング海側

W 3階海側共通リビング海側

G 4階海側共通リビング海側

F 5階海側共通リビング海側

Z 2階山側共通リビング海側 

  ・

  ・

  ・


 壁の結像は寮の外観から内部を描いた絵に変わった。

 ぐるぐると回転したり、縦や横に建物を切って見せながら各ユニットの集合場所を示していく。各階に二つずつ設けられたリビングと呼ばれる共有の休憩室がある。2階の一方、窓から海が見えるのか……。


「5人が集まったら各ユニットのリーダーを決めて管理人に連絡してください、決め方は各ユニットに任せますので、期限は夕方5時です、では開始ぃ!」


 ラウンジに集まっていた新寮生はそれぞれの場所に散ってゆく。

 ラウンジ横の巨大な階段を上り、左右に分かれた居住棟の一方に辿り着くと、立って待つ3人が私たち――嫌がるイワウを背中におぶっている姿に気付いた。


「聖王様、帰ろう、今すぐ帰ろう」


 視線を感じ取ってさらに丸くなりながらイワウがひそひそ声で言うと、

 

「やあ、僕は鶴来火狩、学年トップになれなかった2番目の男として寮内では知られている、ははは冗談だよ、君が石沢アスタさんで、後ろの小さい……ということもないか、彼女が黒瀬イワウさん? ……ええっと、君たちは日本語大丈夫だよね?」


 長身の彼は鋭さのある顔立ちに無防備な笑みを浮かべる。黒髪が映える美しい男だ。私たちが日本語を解さないことを知ると随分驚いたが、表情が豊かなだけでそれほど気にしてはいないように見えた。


「英語で話した方がいいんじゃない? 特にイワウさんは日本語まだ全然だって」

「めんどくさ、私はいいわあ、やらんでいいわあそういうの、ベルが通訳するって」

「いいえ、その問題はリーダーが解決すべき事項です」


 三人はちらっと互いを見合わせる。


「こういうこと言うと悪役みたいだけど、その小動物みたいなのは学年トップなんだからリーダーもやれ、と言いたい」


 小村千早と名乗った女子が迫力のある声を出して、共有リビングにいる他のユニットの者たちの視線も集める。

 

「選出方法を先に決めるべきです」


 ベルと呼ばれる岩のような体格の男は穏やかに違う意見を述べた。

 

「じゃあ、自薦がないなら他薦にする? ……いいや、僕は立候補しない。千早もやりたくないんだろう? ベル……はいはい、じゃあアスタは? イワウさんはどう思う?」


「聖王様、リーダーというのは役目なの?」


 イワウが私の背中から降りようとする――


    **

 

【鶴来火狩】

 ユニットメンバーの一人。美男。


【小村千早】

 ユニットメンバーの一人。美女。


【ベル・ネイファスト】

 ユニットメンバーの一人。美男。

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