最終話 私の好きな人

 あの王宮での出来事から3日ほど寝込んでしまった私は、お父様とお母様にかなり心配された。

 でも、回復後に相変わらずの食事量を食べていると安心したのか、二人は顔を見合わせて笑った。


 私はお日様のあたる自室のベッドで寝転がりシリウスと話す。


「はあ……やっぱりこのお日様の当たるベッドでのお昼寝がいいのよね~」

「お嬢様、あまりぐうたらしますと旦那様と奥様に叱られますよ」

「もうっ! シリウスは小言ばっかり! まるで小姑ね」


 そんな私の嫌味を気にすることなく、いつも通り私の飲む紅茶を用意しているシリウスに私はぼそっと呟く。


「ありがとう、助けてくれて」

「お嬢様が助けを呼んでいらっしゃったので、行ったまでですよ」

「聞こえてたの?」

「ええ」


 そんなわけない、だってあの時私は声なんて出せてなかったもの。

 私は勢いよくベッドから立ち上がると、シリウスに近づいて彼の顔を見上げる。


「本当にありがとう、シリウス」


 私は精いっぱいの笑顔を見せると、なんとも驚いた表情になり、そして彼は紅茶をテーブルにそっと置いた。

 次の瞬間、私のおでこに彼の唇がつけられる。


「……え?」


 私は起こった出来事を理解するのに22秒かかり、そしてそのあとで顔を真っ赤にして目をぱちくりさせる。


「あ、え? その、え?」


 慌てふためく私に彼は意地悪そうな顔をしてそっと耳元で呟いた。


「隙だらけですよ、お嬢様」


 私は恥ずかしさを隠すために彼の胸元をバンバン叩くと、ベッドにもぐりこんだ。

 彼のくすっという笑い声だけが私に届く。



 私はこの有能で頼りになる執事のことを、好きになってしまったらしい──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄されまくる苦労令嬢は、ある日本当の恋を知りました 八重 @yae_sakurairo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ