第6話 王子様じゃなくっても
とある平日の夕方。
優奈と深優が連れ立って買い物をした後。
交差点で歩行者信号の青を見て歩き始めた二人は、確認不足の軽自動車の左折に巻き込まれかけた。
『お母さん!』
その車に先に気づいた深優は、赤ん坊を宿す優奈を歩道側に優しく押し返した。
『深優?!』
よろめきながらも必死に伸ばした優奈の手は届かず、深優は軽自動車に接触して大怪我を負った。
幸い、怪我は後遺症の心配もなく快方に向かっていた。
が、深優はそのまま半年以上、目を覚ましていない。
●
秀二はベッド脇に座り、いつもの通りに深優の頭を撫でながら、語りかける。
「深優。今日、今日な。元気な赤ちゃんが生まれたぞ!もちろん、お母さんも元気だ!深優があんなに待ち望んで、体を張って助けた赤ちゃんは男の子だぞ」
男の子だったら、優太。
女の子だったら、まゆ。
深優が新しい家族を思って、懸命に考えた名前である。
秀二の瞳に涙が溢れ、ぽたりぽたりと床に落ちていく。
「深優、お前ももうすぐ五年生、なんだ。学校のみんなも心配してるから、起きて……おいで。お母さん、も、早くお礼を言いたい、から……起きてって……優太を、見てほしい、って。元気な、おか……さん見て……って」
「お父さん、だって、深優と……話をしたいんだ。あり、が、とうって。優奈と優太、を助けて……くれて、あ、り……がとって。こんど、こんどは、さ?……おと、さんが!みゆっ……まもるっ!まもる……から……!!おき、てよ……!!!」
秀二は横たわる深優の手を握って、泣き続ける。
王子様じゃなくっても。
眠り姫じゃなくっても。
「優太君は、誰とお話してるのかなあ~?元気だねえ~」
新生児室の看護師が、にこにこと優太に話しかける。
「ぁーゃぅー」
優太のキスが頬っぺたに降りそそいで、深優が目を覚ますまで。
大好きなお父さんとお母さんにいっぱいいっぱい、抱きしめられるまで。
あと、少し。
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