第5話 生命(いのち)と生命


 おぎゃあ。

 おぎゃあ。

 おぎゃあ。


 分娩室に、元気な赤子の声が響いた。


 分娩室の前で祈るように手を組んでいた男性は、響き渡る声に顔を上げた。





「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

「ありがとうございます……!」

「お母さんもお元気ですよ!どうぞお顔を!」


 そのまま、岡崎秀二は分娩室に招き入れられた。


 妻の優奈と生まれたばかりの子を見て、目を潤ませる。


「優奈、よく頑張ったな、ありがとう。優太の声を聴いたらきっと深優、嬉しくて飛び起きるぞ」


 秀二はそう言って、優奈に笑いかけた。


「そうね、きっときっと……大騒ぎね」


 優奈は笑みを浮かべながらポロリ、と涙をこぼした。



● 



 優奈達の元気な顔を見て分娩室を後にした秀二は、そのまま同じ病院内の、別の病棟の個室へと向かう。


 その病棟のナースステーションの斜向かいのその部屋では、秀二と優奈の愛娘の深優が半年もの間、滾々こんこんと眠り続けていた。



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