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「さあ、そろそろ椚宅に戻ろうか」


 コロッケ入りの袋を片手に、総統閣下は再び歩き出しました。


 ところが、ほんの少し進んだ時点で、


「あ、総統閣下。どうもこんにちは」


 横の路地から出てきた青年とバッタリ。


「お、キミは、あの大学3浪の青年じゃないか」


「…っと、総統閣下。そんな大きな声で言わないで下さいよ」


 なんて、ちょっぴり周囲を気にする彼は、越智万年おちまんねんさん。いま総統閣下が言ったように、大学3浪の青年で、コスモの姉イオの高校時代の同級生です。


「どうだね。勉強の方は、はかどっているかね」


「ええ、おかげさまで」


「そうかね。だが、その割には何か浮かぬ顔に見えるが…」


 言われてみれば、万年さんの表情は、どこか曇りがちな気もします。


「あいや、さすがは総統閣下。実は、ちょっと困ったことがありましてね…」


「なに、困ったこと、とな?」


 ふと、苦笑を浮かべる万年さんに、総統閣下が聞き返しました。


「え、ええ…まあ」


 自ら言っておきながら、言葉を濁す万年さんです。


「ならば、その辺で少し話でもしようじゃないか。ぼちぼち昼だし、そうそう、そこでウナギでもどうかね」


 などと総統閣下が、すぐ近くの蕎麦屋さんを指差しました。


「そんなウナギなんて、とても高くてムリですよ」


「心配ない。もちろん私がご馳走する。ささ…参ろう」


 それは親身か、あるいは只の暇つぶしか。どのみち近所のおせっかいオジサンの如し。まもなく万年さんともども総統閣下は、先の蕎麦屋さんへと入っていきました。

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我が家の総統閣下 ナナミン・ビューティー(七七七@男姉) @138148

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