雨混じる少女の心

猫犬様

雨混じる少女の心

 生きるために殺す、殺すために生きる。この必要十分条件は成り立つのか。そんなことを考えながら、私は子猫を捌く。この子猫は自販機の横で拾ったモノだ。雨の中に捨てられて弱っていたから、私は子猫を解剖の道具に使っている。最初こそ腹を裂かれる痛みに耐えかねて暴れていたが、最後の力を出し切ったのか、胸まで開くと急に穏やかな顔をした。私は心臓を掴み、それを引き抜く。ビャッ、と鮮血が散る。いや、形容の仕方がおかしい。鮮血が舞う、としたほうが、命の儚さがより表現されるはずだ。まあ、私にとって儚さなんて関係ないけど。

 しばらくすると私は解剖に飽きて、ネコを近くの川に流した。

 生物の生命活動の根幹を担う器官は、どうも美しい。

 そんなことを考えながら、引き抜いた心臓を水で洗い、新聞紙の上に置く。このように血を抜いて乾燥させなければ、あの時、そう、私が初めて取り出したハムスターの内臓のように、どこからか蛆が湧きドロドロに溶けてしまう。そんな状態では、保存なんて出来やしない。美しさなんて、保てない。

 その後、私は心臓の無くなったネコを川に捨てた。今頃、魚の栄養になっているだろう。

 そ外では雨が暴れている。雨粒が窓を叩く。そして私は、自分の胸に手を当て、心臓が胸を叩く音を手で感じながら深い眠りに就いた。

 今日は7月15日の暑い夏の日。朝からこの暑さでは、私はドロドロに溶けてしまう。こんな暑い日に外に出る連中は、世で陽キャと言われる人達なのだろう。海に行ったりキャンプに行ったり、男女混合で楽しいことをする。

 まあ、羨ましくなんてないけれど。

 嘘、少し羨ましい。私にもそんな、キラキラした生活をしたい願望がある。でも、口は心よりも未熟で、いや、心が未熟で口は従順なのかもしれないが、とにかくそう呟いた。

 外に出たくはないが、今日は終業式がある。世の学校の殆どは、一昨日に終業式を迎えているらしい。だから、旧友は今頃遊び呆けているはずだ。

あれ、旧友なんていたっけ。

 私はまた呟いた。旧友、そんなのいたのだろうか。私は、学校で孤立していた気もする。でも、友達がいた気もする。ああ、気味が悪い。何か変な記憶が植え付けられている。変な夢が私の記憶を侵しているのかもしれない。私は考えることをやめた。

 学校が終わり、家路につく。今日は誰とも話さなかった。

 あれ、話しただろ。

 いや、話してない。

 嘘つけ、隣の女子と話したろ。明日から何する、って。

 いやいや、それは前の席の子が話してた内容でしょ。

 そんなことない、絶対に話した。

そうだ、私は話した。隣の子と話したのだ。私は何を言っているんだ。最近おかしい。私が学校で人と話さないわけないだろう。孤立してるんじゃあるまいし。にしても、最近記憶がおかしい。夢と現実の区別がつかないみたいだ。まあ、何とかなるだろうけど。テレビの天気予報は、7月16日に雨が降ると言っている。明日だ。明日は雨が降る。

 そうだ、心臓を探さないと。

私は電気を消した。外は夏の夜だ。静かな夜だった。




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