第27話 拷問と治療

 馬車は一定の速度を保ち、のどかな風景を置き去りにしていく。

 ぐんぐん、ぐんぐんと進んでいく。

 そして――


「お客さん、到着しやしたぜ!!」


 御者の声で、はっと目を覚ます。

 急いで荷物をまとめ、既に起きていたヴァイオレットとともに馬車から降りた。


「お客さん。ここが、リンチョウ自慢の火山『ペチュニア山』です!!」


 御者の指した方向を見て、思わず息を飲んでしまう。

 


 雄大な自然そのもの。

 そのような表現しか出ない程に、その山は大きく、巌巌とそびえ立っていた。


「うわぁ……!!」


 感動と驚きとが混ざった声を漏らした僕の横で、


「山だねぇ」


 そんな薄っぺらい感想を述べる奴が一人。


「ああ、そうだ。迎えは、一週間後の夕刻にお願いしたい」

「承知致しました。それでは、お客様のご安全を心よりお祈りします」


 深々と頭を下げ、御者は馬車へ戻ろうと──


「──あ、ごめん。ちょっといいかな?」

「はい?」


 ──戻ろうとしていた御者を、なぜかヴァイオレットが引き留めた。


「昨日の盗賊の様子をちょっと見たいんだが、良いかな?」

「構いませんよ。何なら、武器貸しますんで、それでちょちょいとお仕置きを……」

「必要ないかな。というか、私の場合、自分の薬で十分に拷問が可能だからね」

「確かに、そのようですね」


 にやりと笑って物騒な話をする二人を見ながら、俺は昨日の自分を棚に上げて、軽い恐怖を覚えていた。




「やあやあ、盗賊諸君。ご機嫌は……。……って、ハァ……」

「どうかしたんですか?」


 残念そうな顔でため息を吐くヴァイオレットに、そう声をかけると、クイッと指で馬車の中をさし、再びため息を吐いた。

 ……何かあったのだろうか。

 そう思い、俺は馬車の中を覗いた。


「──なっ……!?」

「まったく、してやられたよ。嫌な予感はしてたんだけどね」


 馬車の中は、もぬけの殻だった。

 いや、正確に言えば、切断されたロープと重傷を負った数人を残し、あとの盗賊は皆逃げ出していた。


「恐らく、私たちが寝ている間に逃げ出したんだろうね。ハァ……。この手の輩はしつこいから、面倒なことになるよ」

「…………」


 無言のまま馬車の中を見つめている俺を横切り、ヴァイオレットは静かに馬車へ入っていった。


「……ふむ。微弱な魔力が残っているね。この傷は……魔力に当てられたのかな? それと、全身に軽い火傷。……君、結構えげつないことするね」

「……必要でしたので」

「爆発系の魔道具、使ったんだろ?」

「……まあ」

「……どこでそんな高価なものを仕入れてきたのかは聞かないけど、今後使用することは、私が許さない。これ、加減を間違えたら、普通に人が死ぬからね?」

「大丈夫です。間違えないので」

「なんでそう断言できるんだか……。……それに、治療が結構難しいんだよ? ……私じゃなければ、の話だけど」


 そう言ってヴァイオレットは、懐から三本の瓶を取り出した。


「それぞれ薬効の違うポーションだ。これをかければ、傷自体は治るだろうね。……その代わり、副作用として、しばらくの間は睡眠障害が起こるかな」


 そんな説明をしながら、バシャッと音を立て、ヴァイオレットは盗賊たちにポーションをぶちまけた。


「さて、と。あとは、手頃なのを一人……。……こいつでいいか」


 一番手前にいた盗賊の首元を掴み上げ、今度は丸薬をそいつの口に放り込んだ。


「……ん、あ、うぅ……」

「おい、盗賊。質問があるから、答えろ。ただし、答えはなるべく簡潔に」

「うぅ……。うおえっ……!! お、お前、く、口に何を入れた……!?」

「気付け薬。ちょっとした先が痺れるかもだけど、我慢して。……質問一つ目。あんたらのかしらはどこに行った?」

「さあな。というか、俺らも目が覚めたばっかで、何が何やら……。……もしかして、お頭たちは逃げ出したのか?」

「みたいだね。君たちを置いて」


 そう言うと、その盗賊は乾いた笑い声を上げた。


「は、ハッハッハッハッ!! て、てめえら、終わったな」

「ん?」

「お頭はな、一度手ェ出してきた相手には、容赦しねぇんだよ」

「そっちから出してきたくせに」

「それでもだ。へへっ、ざまあみやがれ」

「ふーん。ま、いいや。それじゃ、質問二つ目。今の気分は?」

「気分? お前の薬のせいで、目覚め最悪だよ」

「そうか。それは良かった」

「あ? 何が良かったって……!?」


「ほら、もう一度おやすみ」


 さっきのとは別種類の丸薬を、再び盗賊の口にぶち込むと、盗賊は白目をむいて意識を失った。


「……あ。そういえば、君も聞きたいことがあったんじゃないの?」

「……いえ。多分ですけど、あいつらのボスに聞かないと、意味ないと思うんで」

「そっか。……ま、なんにせよ、こいつらの治療も済んだし、とりあえず、一件落着、かな?」

「……そうですね」


 そんな空返事・・・をしながら、俺は別の事を考えていた。


「それじゃ、山登りに行こうか。結構大変だと思うけど、大丈夫?」

「大丈夫です。すべては……目的のため」

「……そうだね。君はそういう人だったね。まあ、精々頑張りなよ? 死なない程度にさ」


 そう言ってヴァイオレットは、なんとも言えない表情を浮かべながら馬車を降りた。

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落ちこぼれの魔法使い見習いが不老不死になれる伝説の薬を探してただけなのに、変態薬草師に(色々な意味で)襲われた挙句、一緒に薬の素材を探す冒険に行く羽目になったんだが!? ランド @rand_novel

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