第26話 尋問の時間

 深夜。

 辺りはすっかり静まり返り、独特の不気味さを演出している。

 そんななかを、手探りでゆっくりと進んでいく。

 ……多分、もうそろそろだ。

 あと二つ先の馬車。


 …………ここだ。


 一度軽く息を吐き、気持ちを整え、目の前にある布をゆっくりと開いた。


 目の前にいるのは、昼間捕まえた盗賊ども。

 街について引き渡すまでの間、空いていた荷物置きの馬車に捕縛しておくことになったのだ。

 ……チッ、気持ちよさそうに寝息を立てやがって。


「……おい、起きろ」

「……あ? んだ、てめ……!! ……なんだ、ガキか。何の用だよ」


 暗闇でよく見えないが、リーダーっぽかったあいつだろう。


「先に忠告しておく。絶対に暴れるな。騒ぐな。質問されない限り、一切の言葉を発するな」

「あ? てめえ、何の権限で俺らに命令を……!!」


「言ったはずだ。喋るな、と。見えないと思うが、僕の手元には今、特殊な魔道具がある。効果は、人間が死なない程度の爆発が起こる、というものだ」

「ケッ、安い嘘を吐きやがって。爆発系の魔道具なんて、お前程度が持ってるわけねえだろ!!」

「じゃあ、試してみるか? ズボンの右に五個、左に五個もあるしな」

「ハッタリなら、もう少しまともなのを……!?」


 右手に魔道具を握り、適当な位置に放り投げる。


 ――ボッ!!


 軽い炸裂音が鳴り、周囲が一瞬だけ強烈な光に照らされた。


「お、おいっ! おいっ!! しっかりしろ!!」

「おい、なんだよこの臭いは!? ほ、本当に爆発したのかよ!?」

「お、親分、た、助、け……」


 一瞬にして、馬車内は混沌とした地獄へと変わった。

 数人程度、爆発に巻き込まれたのだろう。

 まあ、その程度、なんでもないのだが。


「分かったか? 僕の言うことを聞かなかったら、残りも全部投げつけるからな? ……返事」

「は、はい……!!」


 リーダーの情けない声が聞こえてき、一応構えておいた二つの爆弾をポケットにしまった。


「……ハァ。一つ目の質問。お前らは、通りすがりじゃなく、狙ってこの馬車を襲っただろ?」

「…………」

「答えろ」

「…………はい」


 …………。


「二つ目。お前らは、誰かに雇われた・・・・か?」

「…………はい」

「……三つ目。僕がこの馬車に乗っていると初めから知っていた・・・・・・・・・な?」

「…………はい」


 ビキッと額に血管が浮き上がってくるのを感じる。

 ……僕の想像通りだったな。

 …………。


「四つ目だ。お前らの雇い主は――」


「おや、こんな夜更けに何をしているんだい?」


 背後から突然聞こえてきた声に、思わず飛び上がってしまいそうになる。

 バクバクと音を立てる心臓を何とか抑えながら、そっと後ろを振り向くと――


 ――そこには、ランプで顔を照らされたヴァイオレットがいた。


「……なんだ、お前か」

「なんだとはないだい、失礼な。大体、なんだと聞かれるべきなのは、君の方だよ? さっきも言ったが、こんな夜更けに、何を、しているんだい?」

「…………」


 若干、怒ったような表情をしているヴァイオレットから、フイッと顔を逸らす。


「……もう一度聞くが、何をしていたんだい?」

「ちょっ、ほっへをつかふな!!」

「離すから、君もちゃんと話しなさい」

「わ、分かった!!」


 ヴァイオレットの圧に押され、とうとう観念してしまった。


「……こいつらを、尋問してたんだよ」

「……尋問?」

「……ああ」

「それは、必要な事なのかい?」

「……ああ」


 じっと僕の瞳を見つめ、そして、ようやく頬から手を外された。


「君に必要だったんなら、しょうがない。まあでも、これ以上続けてたら、他の人の迷惑になってしまう。現に私は、君に起こされたんだから」

「……分かったよ」

「うん、素直でよろしい。それと、焦げ臭い盗賊諸君。手当ては明日してあげるから、それまで頑張って耐えたまえ」

「…………」


 僕の脅しが相当効いたのか、盗賊どもは馬車を去る僕らを大人しく見送った。

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