第25話 手料理を

「おや、まだ落ち込んでたのかい?」


 焚き火の傍で項垂れていた僕に、ヴァイオレットはそう声をかけてきた。


「……悪いかよ」

「全然。でも、気持ちは分かるよ。君、まったく活躍できなかったもんねぇ」

「うぐっ」


 ヴァイオレットの言葉が、僕の心を貫いた。


「隣、いいかい?」

「ダメ」

「ふふっ、ありがとう」


 話聞いてんのか、てめえ。

 さも当然のような顔をして座ったヴァイオレットを、軽く睨みつける。


「……てか、食べ物取りすぎじゃね? どんだけ食う気なんだよ」

「だって、御者さんたちが『英雄様たちに不足が無いように』って、どんどん料理くれたんだもん」

「断れよ、そのくらい」

「沢山褒められて、気分が良かったんだよ」

「あっそうですか」


 こいつはいつか、絶対に詐欺にあうな。


「ほら、パトリニア君も食べなよ。美味しいよ? この肉とか、まさに絶品!!」

「いらねえ。お前の持ってる食べ物は食さないって誓ってるんだ」

「そんなに信用無いかい!? 大丈夫、他人が作ったものに、変なものは混ぜないよ」


 料理全般に混ぜるなよ。


「ほら、食べなよー!! 御者さんたちにも失礼だよー!?」

「あー、分かったから、騒ぎ立てるな!!」


 奪うように皿を取り、匂いや色を一応確認する。


「……本当に私への信用ゼロなんだねぇ……」

「一事が万事だ」


 ……うん、大丈夫そうだ。

 そう思いつつも、念には念を、と慎重に料理を口に運んだ。


「……!! う、美味いな、これ……!!」

「そうだろう、そうだろう!!」


 なんでお前が誇らしげなんだよ。


「これ、なんて料理なんだ!?」

「えっ、ニゲラだけど……。知らないの? 家庭料理なのに」

「……僕が生まれた地方には、無かったんだと思う」

「へー、そうなんだ。私が生まれたところでは、かなり一般的な料理でねぇ。鶏肉の腹の中に、数種類の香辛料を調合したものと、野菜、蜂蜜を詰め込んでから、甘めのタレをたっぷり塗って焼くんだ。香辛料の影響で腹の中が真っ黒だから、最初は驚く人も結構いるんだけど、味は絶品で……」

「分かったから、いちいちうんちくを語るな」

「おっと、失敬。でも、地元の料理を褒められるというのは、嬉しいねぇ。特に、自分で作ったものを褒められるというのは、なかなか……」

「……は? これ、お前が作ったのか……!?」

「ああ。美味しそうに食べてくれて、なによりだよ。あ、安心してくれ。本当に、なにも入れてないから」

「……まあ、これだけ食ったんだから、今更やめたって遅いか……」

「……もうちょっと信頼してくれないかい? 終いには泣いちゃうよ?」


 知るか。

 ……だが、美味しいのは本当だし、このまま完食してしまおう。


「……………」

「……なんだよ、こっちばっか見て」

「いや、君がどんな表情で私の手料理を食べてくれるのかなー、と思ってね」

「……キモいから、やめたほうがいいぞ」

「クックックッ、辛辣だねぇ。でも、しょうがないじゃないか。君の顔が可愛いのがいけないんだ」

「嫌味を言う暇があったら、自分も飯食え」

「嫌味だなんて、心外だなぁ。君は可愛いし、かっこいいし、面白いし、最高だよ」

「いい加減にしろ」

「君は気にしてるかもしれないけど、君が馬車を降りてった時、本当にかっこよかったんだよ? だから、もうちょっと自分に自信を持ちなよ」

「…………」


 真面目な顔で言われると、気色悪いんだか、気恥しいんだかで、ぞっとしてくる。

 ……自信、か。

 そんなもん、持てるわけねえだろうが……。


「ほら、無駄口叩いてないで、さっさと食え。もうそろそろ、焚き火を消す時間になるぞ」

「えっ、もうそんな時間なのかい!?」


 慌てた様子で、ヴァイオレットは目の前の料理をガツガツと口にかきこんでいった。

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