第14話


 目を覚ます。


 気づけばベッドの上だった。


 何だ、夢か。


 にしても嫌な夢だった。


 桜路が男だったなんて……。


 そう、悪い夢……なわけない。


 はっきりと男のモノが脳裏に焼き付いている。


「うわああああああ!?」


 おかしいでしょ! おかしいでしょ! おかしいでしょ!


 つか、そもそも何? 私が惚れるように、今までのこと全部仕組まれてた?


 なら、まんまと惚れちゃった私が馬鹿みたいじゃん!!


 しかも、妹のために百合に落とすための練習台、とかいう馬鹿みたいな理由で、落とされたの私?


 酷すぎ、あまりに酷すぎる。弄ばれたことに殺意まで湧いてきた。


 ぐぅ〜、悔しい、許せない、許せない、許せない!!!!


 桜路なんて大嫌い…………ぅぅ、好き。


 どんな事情があろうと、救ってもらったことには変わりない。桜路が可愛くて綺麗で魅力的なのは変わりない。


 悔しい、嫌いになれないのが悔しくて仕方ない。


 で、でも、男なんだよね?


 女の子のことが好きになったせいで、男のことを好きって抵抗感が……って、それが普通だろ!


 ほら、想像してみろ。桜路が男の子っぽく手を引いてくれる。ぎゅっと抱きしめられる。頭をポンポンしてくれる。


 いい。たしかに、いい。


 だけど、それは女の子でもよくないか?


 いやむしろ、そっちの方が心の壁が取れていい気がする。


 う、うぅ、ダメだ。本気で女の子が好きになってる。


 でも桜路は男で、でも好きで……。


 う、う、う、うがあああああああああああああああああ!!!!


 わけがわからない! どうしていいのかもわからない!


 頭を掻き毟った時、扉が開いた。


「あ、起きたんだ。ほら、水」


 桜路が部屋に帰ってきて、ペットボトルを渡してきた。


「あ、ありがとう」


 受け取る。優しくて、飛び上がりそうなほど嬉しくて、えへへ、とにやける。


 ハッ!?


「だ、騙されんぞ、貴様! 優しくして何が目的か!?」


 桜路は呆れた顔をした。


「口調が変なのを置いておいて、そりゃ優しくはするでしょ。後悔はしてないけど、それなりに酷いことしたんだから」


 そうだ、こいつは酷いことをしたんだ! デレるな私!


「そう酷い! 酷いことしたんだよ!」


「ごめんって。それより話があるんだ」


「むっ、話?」


「優子に協力者になって欲しい。ターゲットを探す上、女子として過ごす上で俺の事情を知った人間は力になる」


 何を都合の良いことを! と憤る気持ちを、また頼み事をされて嬉しい気持ちが勝つ。


 くぅ〜、なんて私は残念な生き物なんだ。こんな嫌なやつなのに好きで、でも男の子だから抵抗があって、なのにやっぱり好きで……うがあああああ!


「ダメかな、優子?」


 綺麗で可愛い、お願いをする時の顔。絶対、わざとやってるのはわかるのに、ぐ、ぐぬぬ。


「わ、わかった!」


「ありがとう、優子」


 礼を言われて嬉しくなる快感を求めて呑んでしまう。悔しすぎるけど、やっぱり好き。でも、桜路は男で……うううう!


「優子」


「何!!」


「お願いを聞いてもらった礼だ。俺も何か一つ言うことを聞いてあげる」


 ……まじ? え、じゃあ付き合って。


 そう言おうとしたけれど、桜路が男だという抵抗感に口が開かない。


 本当に私、桜路が好きなのか? いや、好きなのは間違いない。でも、男が嫌なのは間違いない。


 もう頭の中がぐちゃぐちゃで判断を下せない。


 だからこう言った。


「お願い事、考えておく」


 これから桜路と触れ合う機会は多くなるだろう。そして男でも良いのか、やっぱ好きじゃないのか、たしかめてからお願いをする。もうそれしか、私に選択肢はない。


「わかった。じゃあこれからもよろしくね、優子」


 差し出してきた手を思いっきり握る。


「痛いんだけど?」


「これくらい許して!」


 こうして私と桜路の協力関係が始まったのだった。


————————————————————————————————————

ということで、キリのいいとこで、一旦完結です。


元々、息抜きに書いていた作品ですので、伸びなかったらやめる、と決めていました。続きを期待してくださる方には申し訳ない思いで一杯です。


また続きを書くかもしれませんが、少なくともカクヨムコン期間での更新はないです。


今後は下の作品を書く予定で、これは綺麗に完結しますのでもしよかったら是非。

https://kakuyomu.jp/works/16816700426368215608


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美少女を百合に落として「相手は女の子なのに!?」と感情ぐしゃぐしゃにしたのち、男バレしてさらに感情をぐっしゃぐしゃにする話 ひつじ @kitatu

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