潜入?異世界マフィア!

「こっちへ来い!」


 大男が腕を引っ張る。抵抗すべきか従うべきか。訳も分からずにいると、腹に衝撃が走った。

どうやら一撃食らったらしい。

おい、マジかよ……異世界なのに全然強くなってねーじゃん……


 暗くなる視界の中、ぼんやりと乗り物に乗せられたことだけがわかった。



 意識がはっきりとすると、明らかに非合法な事務所の椅子で手足を縛られていた。


「気づいたか」

大男はこちらへと話しかけてくる。周囲を見回すともう一人、細身の男が椅子に座りこちらを伺っている。


「テメー、何を探ってやがる」

大男がドスを聞かせた声でこちらに訪ねてくる。もちろん新魔研のことを伝えるわけにはいかないが、どうしようもないこの状況に解決策は浮かんでこなかった。


 雷撃で紐を切れるか……?いや、相手の戦力がわからない中でこちらの手の内をさらすのはあまりにも愚策すぎる。


「何も言わずに帰れることはねーからな」


 大男は指先から炎を出す。この世界では普通なのだろうか。

炎が眼前に迫り、さすがに黙っているわけにはいかなかった。


「待ってください!!探っているってなんのことですか!!」

震える声で振り絞る。しかし、大男は話を聞かず耳に炎を当ててきた。


 熱い!転生世界でも普通にめちゃくちゃ痛くて熱いじゃねーか!!


「くだらない問答はしない。次の発言が似たようなもんだったら、この指はそのままてめーの耳に突っ込む」


 そんなの大怪我でも済まされない!一生後遺症が残るぞ!

ガタガタと震え、何も言い出せない。自分が使える魔法のことなど全く思い出せなくなってしまった。


「おい」

奥で座っていた細身の男が声を出す。


「あんまりビビらせたらしゃべれるもんもしゃべれねーだろ」

脅しをかけていた大男が指から炎をひっこめる。

助かったのか……?安堵で涙目になる。


「ガキをあんまりビビらせても仕方ねぇだろ」

そう言って制する細身の男は、おそらく立場が上なのだろう。

大男は一歩後ろに身を引いて、会話の主導権を細身の男に譲る。


「なぁ、何も取って食おうって訳じゃねーんだ。ただ、何かを探ってるような物言いだったから気になっちまったんだよ」


 細身の男はそのまま続ける。


「いや……俺は……」

男のやさしい口調に、正直に話すことも考えてしまった。しかし、頭にはある言葉がうかんでくる。

──あらゆるものを疑え。仲間を頼れ。

旧アンノからの手紙の言葉だった。


 そうだ。あまりの恐怖に忘れていたが、こんなものは明らかな良い警官・悪い警官のテクニックじゃないか。良いマフィアと悪いマフィアか、いや、マフィアに良いものなんているわけがない。


 虚勢であると伝わってもいい。とにかく打てる手をうつ。

「ほとんど無いんです……知っていることは……」


 倒置法で相手の興味を引く。


「いや……どこまで話していいのか……あなた方はマフィアですよね……どうしよう……兄さんに怒られる……」


 支離滅裂な発言、いるはずのない兄の話。全てはただの時間稼ぎだ。

仲間を頼れ。とにかく助けが来るまで粘るしかない。


「てめぇ適当なことばっか言ってると燃やすぞ!!」

大男が叫び、腕から炎が上がる。炎の熱で、室温がジリジリと上昇することがわかる。


「やめろ。ビビらせてもまともな話は出てこねぇ」

細身の男が制するが、大男は炎を収めることをしない。汗をかくほどの熱が伝わってくる。


 熱を感じながらも、恐怖からか室温が下がったように感じていた。

ガタガタと震えるほどの寒気に自身の終わりを悟る。



……いや、違う。本当に震えるほど寒くなっている。


 男たちも異変に気づいたのか、周囲を見回し始めた。


「てめぇ……なにかやってやがるのか?」


 こちらに質問をするがもちろん心当たりはない。使えるのは下手くそな雷撃しか無いんだ。


パキッ


 鋭い音が響いたのち、足元が一面氷漬けとなる。


「何しやがった!」


 大男が尋ねるが、状況が理解できていないのはこちらも同じだ。

足元の氷は男たちの膝下まで迫る。男たちは氷に捕まり動けない様だ。


 ダンッという音とともに事務所のドアが開く。

覆面を被った人物は、入るなりこういった。


「遅くなったね~。ま、リラックス、リラックス~」

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魔法警察公安0課 七篠 久 @nanashinoQ

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