第105話 偽たくあん聖女19


 私の目の前には巨大なたくあん。

 そしてその下には、下敷きになって気絶してしまったアメリアの姿が──。


「クロードさん!! お怪我は!?」

 私はすぐに、先ほどまで鋭い蔦が迫っていたクロードさんへと駆け寄る。

 蔦はアメリアと一緒にたくあんに潰されてしまっているようだけれど、間に合っただろうか?


「う、うん。大丈夫、だよ。リゼのおかげでね」

「よかった……!!」

 クロードさんの無事を確認して一気に力が抜けた私がクロードさんの方へと倒れ込むと、彼はすぐに私を受け止めてくれた。


「ありがとう、リゼ」

「間に合ってよかったです」

 クロードさんの腕に抱かれながら、2人顔を見合わせて微笑む。


「にしてもお前これ……生きてるか?」

 じとっと巨大たくあんとその下で伸びるアメリアを見下ろすラズロフ様の言葉に我にかえった私は、あらためて身体に力を込め、アメリアにゆっくりと近づく。


「お、おい、危険──「完璧に伸びてます」──え?」


 アメリアの意識は完全に飛んでいた。

 これなら危険もないだろう。

 起きなければ、だけれど。


 私がアメリアの顔を覗き込んでいると、隣にどこからともなくカデナ殿下が座り込み、アメリアの首筋に触れた。


「そのようですね」

「カデナ殿下!? 今までどこに!?」

「私は戦闘に不向きなので、遠くから皆さんを見ていました」

 うん、正直すぎて清々しいな。


「念のため、これをつけておきましょう」

 そう言ってカデナ殿下が懐から取り出したのは金色の首輪。

 カデナ殿下はそれをアメリアの首へかしゃりとはめると、巨大たくあんの下から彼女を引きずり出した。


「それは?」

「スキル封じの首輪です」

「スキル封じ!?」


 え、そんなものがあるの!?

 最強すぎる……。


「私がしている研究の一つがスキルに関するもので、これはその研究で作り出した一点ものなんです。何かあった時のために持ち歩いていてよかった」


 いつも持ち歩いてるんだ、これ。

 さすが研究者……。


「偽たくあん聖女を一旦城に閉じ込めておくため、騎士を呼びますね」

 そう言うとカデナ殿下は首から下げていた金色の笛をピューッと吹いた。

「こ、これで来るんですか?」

「はい。騎士にはこれを吹くだけで私が呼んでいることが通じるアイテムなんです。私が作ったんですよ」

 もう一度言おう。

 さすが研究者……。


「なっ……これはなんだ!?」

「大きな音がしたからきてみれば……」

「なんだこの匂い……!!」


 そうこうしているうちに続々と集まってきた街の人々。

 こんなに騒いでいたらそうなるわよね。


「お、さっきの兄妹じゃないか。これは一体……?」

 そう声をかけてきたのは、広場で有力な情報を与えてくれた男性だった。

「え、えっと、これは……」

 私が何を言おうかと迷っていると、隣からカデナ殿下が私の前へと進み出て、かぶっていた変装用の帽子を脱ぎ去った。


「あ、あなた様は……!!」

「王太子殿下!?」

 あらわになったそのお顔に、ざわめき出す街の人々。


「いかにも。私はこの国の王太子カデナだ。そちらはベジタル王国の元王太子ラズロフ殿。その隣がフルティア王国の元第二王子クロード殿。そしてそちらの女性が“本物の”たくあん聖女様──リゼリア殿だ」


 カデナ殿下が私たちに視線を移してそれぞれの紹介をすると、ざわめきは一層大きくなった。


「たくあん聖女!?」

「妹ちゃんが!?」

「え、本物って……」

 戸惑いながら私たちを見る街の人々に、カデナ殿下は再び口を開く。


「昨今、たくあん聖女を名乗り人々に害をなす者がいると噂で聞いた彼女たちは、遠路はるばるそれを解決するため、この国に来てくださった。そして──」


 カデナ殿下はすぐそばで伸びているアメリアに視線を移しながら続ける。


「──これが、諸君らを危険に晒した、“偽”たくあん聖女だ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る